落ち着いて寝る。それからまた寝る。

エリー.ファー

落ち着いて寝る。それからまた寝る。

 寝て、起きて。寝て、起きて。

 たまに蕎麦を食べに行き、他にも美味しいものを食べに行き、あとは軽井沢のコテージに行く。

 アートは飽きるほど。

 才能は金になり、才能に際限はない。本当に努力で前に進むタイプの人間でなくて良かったと思う。

 水辺に船を浮かべる仕事をしているが、それが少しだけ方向を変える時、私はもういない。方向と風と天気と乗組員と食料と燃料、それだけではないそれ以外のすべてについてはなんとなく。

 船が進むかどうかは知らない。

 進めたい船が進んでいく。

 進めるべき船がどうなるかなど知らない。私の手の中にある船ではない。勝手に進むということになって、勝手に乗せられるただけのことだ。

 飽きたらやらない。やっていれば結果が出る。

 繰り返して生きている。

 本筋から逸れた物語にも、興味が出れば飛びつき、そこでやりたいことに精を出し、そこに生を見い出す。大事なものであり、最重要なのである。私は私よりも上位の存在に何かを売り飛ばしてしまったのかもしれない。

 私が知っていない何か、である。

 でも、困らなかった。

 何故だろう。

 他の人にとっては困るものであったというだけだ。私にとって、私以外の人生は存在していないことと同じだ。

 悲しいことか。

 いや。

 楽なことだ。

 本当に希望溢れる怠惰に、立ち位置の高さが合わさってどこまでも遠くが見えてしまう。このいやらしさが、そのまま才能に直結しているという事実。

 私は私のことが大好きだが、それはきっとこういう所からも生まれ出てきたものなのだろう。何せ、重解だ。他に見当たらないし、重なったところで大きく違いの出るものではない。シンプルになるだけだ。

 私は出会った人のことを記憶している。

 記憶から外れてしまった人のことを憶えておくことができない。

 消えた人々は、皆、私の人生に二度と出てくることはない。

 そうして、そのまま薄氷を踏む。振動の少ない人生を歩むようになる。

 何故だろう。

 コツを知らないということだろうか。

 幸せであることと、楽であることと、高尚であることと、自分を演じられるのが自分以外にはいないということと。

 すべて繋がっている。

 学ぶ機会を失ったまま、白い世界に落とすインク。白いまま生きていくこともできたはずなのに、剥がれてしまったのは衣服だろう。

 纏うべきだ。

 そんなに恥ずかしいのなら。

 着飾るべきだ。

 私が言うべきことではない。言われる対象が理解しなければいけないことだ。ありふれている世界の、どこかにいる人なのだから。その生き方を許容しなければ命が宿らないということなのだろう。

 それは、そうだけれど。

 その歩幅に憧れないのは、本人もそうだろう。死んでいくリアルさが、やけに沁みわたってしまうから。

 私が、私のことを好きであることは、奇妙で奇天烈で摩訶不思議で珍妙なのだろう。

 記憶の片隅でちらつく存在に、少しだけ視線を送ると手を振ってくる。私の表情は見えていないのだろう。だから、私はそのお礼に視界に入れてあげることにする。

「あの船は、どこに向かうのですか」

 私は海を見つめる。

 魚が跳ねる。

「この船が到達できる場所ではない。そう言っておく」

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