運慶展 ― 横須賀美術館 その一

 今、横須賀美術館で、「開館15周年記念 800年遠忌記念特別展 運慶 鎌倉幕府と三浦一族」なる展示をやっている。開催期間はあとわずか。九月四日、次の日曜日までである。

 先日、この特別展に家人と二人で行ってきた。


 横須賀美術館を訪れるのは、これが二度目である。

 同館は、横須賀市の市街地からはかなり離れており、三浦半島を南に下った観音崎灯台の方面にある。東京湾に面した立地である。

 正面の道路よりもほんの少しだけ小高い場所に美術館はあり、道路と美術館の間の広々としたスペースには芝生が植わっている。建物は白を基調にガラスをふんだんに使用したモダンな造り。洗練された雰囲気である。

 さて、美術館に着いたら、そのまま入口から中に入るのではなく、いったん立止り、道路から芝生のスペースを通ってここまでやって来た方向を、振返って見てもらいたい。

 美術館の入口を背にして、前方に視線を向ける。

 どうだろうか?

 極々緩やかに、心持ち下って行く斜面、そこに広がる青々とした芝生、その先を横切る道路、さらにその向こうには、青い海、東京湾の眺望が開けている。

 東京湾は海上交通の要衝であるため、大小さまざまな船が数多く右から左へ、あるいは左から右へ行き来する様子が見られ、その船の往来を見越したずっと先の対岸、内房の山や建物が少し霞みながら目に入る。

 実に広々とした、気持ちの良い風景である。海からの風が、芝生をそよがせ、涼しく顔を撫でて行く。

 美術館には、人気のイタリア料理店が併設されており、近くには、観音崎京急ホテルもある。ホテルの敷地や道路沿いには、カナリーヤシなどのエキゾティックな植物が並んでいる。

 関東にありながら南国ムード漂う、まさに「リゾート」という言葉が打ってつけの環境。


 ただ、残念なことに、件の観音崎京急ホテルは今年の九月いっぱいで営業を終えるとのこと。コロナ禍と相俟って、観光客の呼び込みになかなか厳しい事情があるのかも知れない。

 たしかに、周辺の公共交通機関の便はそれほど快適とは言えない。

 何しろ、近くまで鉄道が通っていないため、京急の馬堀海岸駅などからバスを利用しなければならない。バスの往来頻度は、片道で一時間に三本程度。したがって、二十分待てばバスに乗れるという勘定である。

 逆に言えば、バスに乗り遅れると、二十分待たないと、次が来ないということ。

 先日は、僕もバスを使ったのだが、土曜日だったためか、乗客が多く、通路に立たなければならない人も少なくなかった。まあ、乗車時間は、馬堀海岸駅からここまで十分程度なので、ご高齢の方や健康に不安のある方以外は、立っていてもそれほどの苦痛を強いられるという訳でもなさそうである。

 これをどう受け取るかは、人それぞれだろう。


 僕達は、横須賀美術館の一つ手前のバス停で降り、走水神社に参詣した後、徒歩で美術館に向かった。

 歩いた時間は十分程度。全く苦にはならない。

 開館時間ちょうどぐらいに着けるようにと算段して、朝早くに出発し、思惑通りに到着できたのだが、意外にもすでに館外に長い列が出来ている。

 今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の影響もあり、また、特別展の期間もあと一週間で終わりになるというタイミングでもあったため、込み合うのではなかろうかとの懸念はあった。そのために、早めに出てきたのに、このありさまである。僕たちと同じような考えの人は、少なくなかったようで、相変わらず、僕の判断は若干甘いようだ。


 係の方に案内されるまま、最後尾に着いたが、列は断続的に漸進する。少し進んでは止まりを、四、五回ほど繰り返しただろうか、十分ほどで館内に入ることが出来た。

 と思ったら、ここでもチケット売り場の前に「己」の字のように、矩形に折れ曲がった列。三、四分ほどで、ようやくチケットを手に入れて展示室へ。


 特別展の様子は、また、次回お話しするとしよう。



                         <続く>








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