鯛の田楽など

 先日、テレビ番組で、埼玉かどこだか、関東の内陸の街だったと思うが、江戸時代の料理を出している料理屋か旅館かが出ていた。どうも甚だ覚束ない記憶で申し訳ないが、其処の女性主人が江戸時代の料理を再現して客に提供しているということで、鯛の田楽を作っていた。

 皮付きの鯛の切身を炙って、仕上げに黒くどんみりとした田楽味噌を塗ってさらに少し炙るというものであった。

 一体僕は、昔風のものに頗る惹かれる性向があり、食いしん坊という性根もある。したがって、古い時代に食されていた料理というと非常に興味深く、わが家にも江戸料理のレシピ本がある。また、正岡子規、內田百閒を始め、魯山人や吉田健一や草野心平や池波正太郎や檀一雄などなど、食に執着せられ給いし多くの文人のエッセイ・随筆などが、わが家の書斎兼物置に転がっている。

 江戸時代の魚田ぎょでんとは乙なものである。あまっさえ、鯛と来れば。何となれば、僕の祖母の好物は鯛で、曰く「鯛は魚の王様」だそうな。

 こうなっては堪らない。件の鯛の魚田ぎょでんで一杯やりたくなった。

 ただ、僕は、平日はなるべく酒を呑まないよう努めているので、すぐにという訳にはいかない。そこで、金曜日の晩餐にと家人に所望した。所望したのは、慥か火曜だったように記憶する。そこからは、魚田で一杯を生きる希望として、金曜まで毎日、あと幾日かと指折り数えて過ごしたものである。

 かくして、待ちに待った金曜日の晩餐。

 暑い日が続くので、味の濃い魚田の他には、さっぱりした酒肴が好都合である。

 さて、献立は次の通り。


鶏牛蒡飯


 炊込み飯ではなく、鶏と牛蒡を甘辛く炊いたものを、炊き立ての飯に混ぜ込んだまぜ飯である。俵型に握ってある。


鯛と蛸と胡瓜の酢鱠


 鯛は塩をして酢で洗って〆ておいたもの、茹蛸、胡瓜揉み、米酢、砂糖、薄口醬油、塩を合せる。


炙枝豆


 鉄の鍋で莢の枝豆を煎って塩を振る。


茄子と茗荷と椎茸の吸物


 鰹節の出汁に、茄子、茗荷、椎茸を入れ少しく煮るというより温める。


蛸と鶏の炙物


 鶏飯や酢鱠にした鶏と蛸の残りを串に刺し塩をして炙る。


奴豆腐


 薬味は、小葱、大葉、茗荷、生姜。生醤油にて。


鯛の田楽


 皮付きの切身は手に入らず。仕方なく、刺身用の冊を用いる。残りは既述の酢鱠に。


 酒は、よく冷した出羽鶴の純米吟醸生酒。


 写真はTwitterに。

 https://twitter.com/Surakaki_Hyoko/status/1552954401572065280



                         <了>




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