第54話

 ベティは週末のお茶会のためにイチゴタルトを焼いていた。

「ベティ様、先日教会に行ったときに聞いたんですが、バーニーは教会で仕事を始めたそうです」

「まあ、それは素晴らしいわね」

 ロージーは明るい顔で答えたベティに向かって頷いた。


「これで、ライラとも付き合っていけるだろうし、良かったと思います」

 ロージーはそう言ったが、少し横顔が寂しそうだった。

「ロージーはバーニーさんのことが好きだったの?」

「いいえ! 違いますよ。ただの腐れ縁です」

 ベティは否定するロージーの様子を見てホッとした。

 ロージーは特に傷ついた様子はなかったからだ。


「明日はお昼を食べたらコールマン家に行きますよ、ベティ様」

「ええ、ロージー。クライド様にお会いできるのは嬉しいですわ」

 ベティは焼き終えたイチゴタルトを丁度いい綺麗な箱にしまった。

「それでは、明日はこのイチゴタルトを持って、コールマン家にお邪魔致しましょう」

「分かりました。ベティ様」

 二人はいつも通りの夜を迎え、朝が来た。


 時間になったので、馬車に乗りコールマン家に向かう。

「ベティ様、桜色のドレスがよく似合っていますね」

「そうですか? クライド様にもそう思って頂けると嬉しいのですけれど」

 ベティは最近、ロージーが心を許してきてくれているのが嬉しくて思わず微笑んだ。


「着きましたよ、ベティ様」

「あら、玄関から出てきたのはクライド様ではなくて?」

 ベティの言葉で、ロージーが振り向いた。

 二人の目線は明るい色のスーツを着たクライドに注がれている。

「お久しぶりです、ベティ様。待ちきれずにお迎えに上がりました」


「クライド様、お元気に成られたようで良かったですわ」

 ロージーが馬車に置いていた箱をベティに渡す。

 ベティは受け取った箱をクライドに差し出した。

「今日はイチゴタルトを焼いてみましたの。お口に合えば良いのですが」

「そうですか、ありがとうございます」

 クライドは執事を呼ぶと、ガーデンテラスでティータイムを過ごす為の準備をするように指示をした。


「風邪くらいと言って、無理をしてはいけませんね」

 クライドは少し疲れたように笑った。

「そうですわ。体調がおかしかったら、早めに休んで下さいませ。……心配しましたわ」

「それは申し訳ないことをしました」

 クライドの案内に従って中庭に行くと、既にティーセットとベティの持ってきたイチゴタルトと、マーマレードとクリームが置かれたスコーンが並んでいた。

「ロージーさんも一緒にお茶を飲みませんか?」

「いえ、お久しぶりの再会に水を差すようなことはしません」

 ロージーはクライドとベティに向かって微笑んでから馬車に戻っていった。


「寝込むのは、辛くて退屈なものですね」

「……そうですわね。あら、このマーマレードは私の作ったものではありませんか?」

「ええ。美味しかったので、今日のために少し残して置いたのです」

「そう言って頂けると、作ったかいがあったように思えますわ」

 ベティは嬉しくなって、スコーンにマーマレードと甘いクリームを塗り、一口食べた。

「ベティ様は美味しそうに食べますね。良いことです」

 クライドは口元にクリームを付けているベティを見て優しく笑った。

「ベティ様、ちょっと失礼」

 クライドはそう言うと、ナプキンでベティの口元をそっと拭った。


「ありがとうございます、クライド様。私ったら子どもみたい」

 にっこりとベティが笑う。

「ふふ」

 クライドは久しぶりに見るベティの笑顔につられて、また笑った。

「やっぱり、ロージーも呼んできましょう。二人きりだと心臓が痛くなってしまいますわ」

 ベティの言葉を聞いてクライドは苦笑しながら、執事にロージーを連れてくるように言った。


「おまたせしました、ベティ様、クライド様」

「ロージー、やっぱり三人でお茶を飲みましょう」

「わかりました」

 三人はのんびりと外の空気を楽しみながらお茶を飲んだ。

「そういえば、バーニーさんとライラさんが、一緒に町を歩いているのを見かけましたよ」

「そうなんですか? クライド様」

「ええ。仕事の帰り道に見かけました。二人とも楽しそうでしたよ」

 ベティは二人が上手くいっている様子を聞いて、嬉しくなった。

 ティータイムが終わりに近づいた頃、日差しが強くなり夏の気配を感じさせた。

「……春はあっという間にすぎてしまいますわね」

「そうですね」

 ベティはクライドと見つめ合った後、お礼を言って家に帰ることにした。


「今日はおまねきありがとうございました。楽しい時間を過ごせましたわ」

「それは良かった。私も元気をいただきました。ロージーさんもありがとう」

 微笑むクライドを見て、ベティは心が弾んだ。

「クライド様も、良く笑うようになりましたわね」

「ベティ様のおかげです」

「それでは、今日はこの辺で失礼致します。また、お会い致しましょう、ね、ロージー」

「ありがとうございました、クライド様」

 ベティがお辞儀をして、馬車に向かうとロージーもお礼を言って馬車に駆け足で向かった


「お気を付けて」

 クライドは馬車が見えなくなるまで、手を振っていた。

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