第47話
ベティが修道院に行った翌日、フローレス家のティータイムにクライドを呼んだ。
「こんにちはクライド様、お約束の件を守って下さったんですね」
ベティはクライドにそう言うと手を差し伸べた。
「ええ。私はベティ様との約束を、違えたことは無いと思いますよ」
クライドはベティの手を取り微笑みんだ。ベティは緊張が解けるのを感じた。
「でも、クライド様。バーニーさん達は素直に言うことを聞いたのですか?」
「……コールマン家の者に、孤児達が逆らうことは出来ないでしょう?」
「まあ、そうですか……」
ベティは悲しそうに俯いた。
「何故、そんな顔をするのですか? ベティ様」
「いえ、仕方の無いことですが、バーニー達にも納得した上でマナーを覚えて頂きたかったので」
クライドは、立ったままのベティを椅子に座るようエスコートしてから、自分もベティの向かいの席に座った。
「クライド様、美味しい紅茶とスコーンを用意しておりますのでお召し上がり下さい」
「ありがとうございます、ベティ様」
二人が世間話をしていると、ロージーが紅茶とスコーンを二人分運んで来た。
「ありがとう、ロージーさん」
「ロージー、ありがとう」
「いいえ、クライド様、ベティ様。何かご用がありましたらお声がけ下さい」
ロージーは紅茶を運び終えると、別の仕事をするためにその場を去って行った。
「ロージーさんは、ずいぶん仕事に慣れたようですね」
「ええ。とても助かっておりますわ」
ベティは紅茶を一口飲んでから、クライドに尋ねた。
「バーニーさんは、自分たちは無力だとおっしゃっていましたが、何かあったのですか?」
「ベティ様、貴族が平民にマナーを教えるというのは異例なことですよ?」
クライドの表情が曇った。
「……そうですわね」
「当家の使用人のロイスは、昔からの作法にも通じておりますし、講習は少々厳しく難しい内容だったかも知れません」
ベティは寂しげに微笑んで言った。
「……そうでしたか」
クライドはスコーンを一口食べ、紅茶を飲んでから言った。
「ベティ様、すべての人が平等になるということは難しいのですよ」
「……それでも、そう願ってしまいますわ」
クライドはため息をついた。
「ベティ様は優しすぎます。その優しさは、時に人を傷つけるのですよ?」
ベティはバーニーの、悔しそうな表情を思い出して黙り込んだ。
「さて、気分を変えましょう。最近は何をされていたのですか?」
「編み物や読書をしておりました。クライド様は?」
「仕事が多かったですね。自然の中でくつろぎたいと思っているところです」
クライドの話を聞いて、ベティの表情が少し明るくなった。
「それでしたら、今度また森までピクニックに参りませんか?」
「良いですね」
ベティとクライドは町の噂や、ピクニックの予定について楽しく語り合い、気がつくと、もう夕暮れが迫っていた。
「それでは、これで失礼致します。ベティ様」
「今日は来て下さってありがとうございました、クライド様」
ベティは馬車で帰っていくクライドを見送ると、ロージーに言った。
「ロージー、私はバーニーさん達に返って悪いことをしてしまったのでしょうか?」
「……いいえ、ベティ様。マナーは覚えて悪いことではありません」
「ありがとう、ロージー」
ベティは屋敷に入ると、自分の部屋に戻ってボンヤリと窓から外を眺めていた。
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