第38話

 ある朝、ベティは寒さで目を覚ました。


「今日は寒いですわね。冬も本番になったのですね」

 ベティはそう言いながら、窓の外を眺めた。

 外はまだ暗かったが、小さな人影が家の外を歩いているのが見えた。


「あら、あれはロージー? ……何処へ行くのでしょうか? 特に頼み事はしておりませんが……?」

 ベティはちょっと思案したが、慌ててロージーの後を付けることにした。


 ベティは暖かなコートを羽織って、首元には編み終わったばかりのトルマリン色の緑のマフラーを巻いて急いでロージーの後を追った。

 ロージーは町の中を急ぎ足で歩いて行く。

「あら? この方向はもしかして……?」

 ベティは足音を忍ばせてその後を追った。


 ロージーは辺りに人が居ないのを確認してから、建物に入った。

「やっぱり、孤児院に用事だったのですね」

 ベティは孤児院の中に入ったベティを見届けてから、そっとその扉を開いて中に入った。


 ロージーの声がする。

「クラーラ? おいで。暖かいマフラーをあげる」

「ロージー、どうしたの? このウサギのマフラー、とても温かくてやわらかい! それに可愛い」

 喜んでいる声の持ち主は、この孤児院で一番年少のクラーラだった。


「ロージー? そのマフラーはロージーにあげたのですが、気に入りませんでしたか?」

 ベティはロージーの傍に歩み寄ると、悲しそうに言った。

「ベティ様!? 私の後を付けてきたんですか!?」

 ベティはロージーのことを睨んだ。


「いらないなら、直接言って下されば良かったのに」

 ロージーは俯いて、呟くように言った。

「いいえ、あの……あんまり素敵だったから、クラーラにあげたら喜ぶと思って」

「そうでしたの? 言って下されば新しく編みましたのに」


「ロージー、この人誰?」

「私の雇い主のベティ様。……怖くないよ」

「ベティと申します。よろしくね、クラーラさん」


「あの、このマフラー、ロージーの?」

 クラーラはそう言うと首に巻いたウサギのマフラーを外した。

「ええ。ですから、貴方には少し大きいでしょう? 私がもう少し小さい物を編んであげますわ」

 ベティはそう言ってクラーラの頭を撫でた。


「ベティ様、良いんですか?」

 ロージーは驚いた。

「ええ。でも、十人分も編むとなると、冬が終わってしまうかも知れませんわね」

 ベティは笑ってロージーに答えた。


「ベティ様……。ありがとうございます」

 ロージーが嬉しそうに微笑んだ。

 ベティにロージーが心から笑いかけたのは、これが初めてだった。


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