第21話
珊瑚のブローチ事件の翌日、ベティはクライドとお茶の約束をしていた。
「そろそろ時間ですね。ロージー、荷物持ちをお願い致しますわ」
「……はい、ベティ様」
ロージーは昨日のことをどう考えているのか、その表情からは読み取れなかった。
「お母様、クライド様のお屋敷に行ってきます」
「粗相の無いよう、気をつけるのですよ、ロージー」
「はい、ご主人様」
ロージーは丁寧にお辞儀をすると、ベティの荷物を持ち馬車に乗り込んだ。
「ベティ様、お手をどうぞ」
「ありがとう、ロージー」
「……当然のことです」
ロージーにはベティとうち解けようとする様子は無かった。
クライドの屋敷に着くと、ベティとロージーは門の前で馬車を降りた。
「お待ちしておりました、ベティ様。おや? その子は?」
「私の小間使いで、ロージーと言います。ロージー、クライド様にご挨拶を」
ロージーは笑顔を浮かべて、クライドに挨拶をした。
「ロージー・フィッシャーと申します。以後、お見知りおきを」
「私はクライド・コールマンです」
クライドも微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
「ベティ様、珊瑚のブローチの件は宝石商のスミスさんから聞き及んでおります」
「まあ、誤解なさらないで下さいませ。ロージーにも事情があったのです」
ロージーは無表情になり、クライドを見つめた。
「ロージーさん、手を出して下さい」
「こうですか?」
ロージーが両手をクライドに差し出すと、クライドは小さな鞭を胸元から取り出し、ロージーの手を軽く打った。
「まあ! なにをなさるのですか? クライド様!?」
「ベティ様のことですから、罰を与えていないだろうと思ったのです」
「……」
ロージーは何も言わず、赤く線のついた両手をじっと見ていた。
「ベティ様、優しいのは良いことですが、悪いことを行ったものはそれなりの罰を受けなければなりません」
「クライド様! ロージーはまだ子どもです。手を鞭で打ったりしたら可哀想ですわ」
ベティはロージーをかばうように、クライドとロージーの間に割って入った。
「ベティ様、私は罰を受けるべきだと思います」
ロージーが小さな声で言った。
「そうですね、ロージーさん。貴方のしたことは、修道院の名誉を傷つけることでもあるんですよ」
クライドはそう言うと、もう良いというようにロージーの手を下げさせた。
「さて、お茶会の前に嫌な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。ベティ様」
「……クライド様?」
「せっかくですから、ロージーさんにもお茶会に参加して頂きましょう」
クライドはそう言うと、ロージーに微笑みかけた。
「私も、ですか?」
ロージーは疑うような目でクライドの顔をのぞき込んだ。
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