第20話
ロージーが来た翌日、ベティが目を覚ますと部屋の様子に少し違和感を覚えた。
「あら、なんだか昨日の夜と、部屋のものの置き方が違っているようですわ?」
ベティは部屋に飾っている小物の位置が微妙に変わっていることに気がついた。
「まあ、なんでしょう? 誰か部屋に入ったのかしら?」
ベティは部屋を見回っていると、大切にしていた珊瑚のブローチが一つ無くなっていることが分かった。そのとき、ベティの部屋がノックされ、少女の声で呼び出された。
「ベティ様、朝ご飯の時間ですよ」
「はい、分かりました。ありがとうロージー」
ベティは食事の際、両親に相談することにした。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはようベティ」
「おはよう」
ベティが食卓に着くと、温かいたっぷりのカフェオレと、サクサクのクロワッサン、とろとろのオムレツが用意された。
「いただきます」
三人は食事を始めた。
「お父様、お母様、私の部屋に入りましたか?」
「いいえ、ベティ。勝手に人の部屋に入ったりはしませんよ」
父親も母親の言葉に頷いている。
ベティは悩ましいと言った風に首をかしげた。
「実は私、おばあさまからいただいた珊瑚のブローチを無くしてしまったようなのです」
ベティの言葉に、ロージーが目をそらした。
「ロージーも知りませんか?」
「私は知りません」
ロージーは床を見ながら、ベティに返事をした。
「大切なものなのに申し訳ありません。お父様、お母様」
「もう一度調べてみなさい。どこかにつけていって落としたと言うことは無いのかい?」
父親が優しくベティに尋ねた。ベティは素直に頷いた。
「外には持ち出しておりませんわ。いつも棚に飾っていましたから。部屋の中にあるはずなのですけれど……」
朝食を終えるとベティは部屋に戻った。そして、珊瑚のブローチが無いか棚の隙間や床の上を隅々まで探した。
「まさか、泥棒が入ったのかしら? でも、お父様もお母様も何か無くなったと言う話はしていらっしゃらなかったし……」
ベティは部屋を元に戻すと、空になったブローチ入れを見つめてため息をついた。
そのとき、玄関の方から声がした。
「こんにちは、宝石商のスミス・パークです」
父親と母親が受け答えする声が聞こえてくる。
「あら。どうしたんですか? 今日は来て頂く予定は無かったはずですが」
父親が不思議そうに訊ねている。
「実はこの珊瑚のブローチを、茶色の髪をしたまだ小さなお嬢さんが店に売りに来たんです。ですが、代々フローレス家に伝わっているブローチだったと記憶しておりましたので、こうして確認に参りました」
「あら。それはありがとうございます。ベティ、いらっしゃい」
母親に呼ばれて、ベティは宝石商の元にやって来た。
ベティは差し出されたブローチを受け取りよく見てから声を上げた。
「まあ、このブローチはおばあさまからいただいたブローチ! 何故これがお店に?」
「あ、あの子が持ってきたんです!!」
宝石商は、廊下の隅から様子を伺っているロージーを指さした。
「もうバレましたか」
ロージーは舌打ちをして、屋敷から逃げだそうとした。
「お待ちなさい、ロージー! スミス様、そのブローチは私がロージーにあげたのですわ」
ベティはそう言ってにっこりと微笑んだ。
「ね、ロージー? 売ってはいけないと言い忘れてしまいましたわね、私」
ベティはロージーを見つめた。
「なんでそんな嘘をつくの? 私が盗んだって分かってるでしょ!?」
ベティは悲しい顔をしてベティの目をじっと見た。
「何か理由があったのでしょう? 話して下さい、ロージー」
「盗人は手を切れば良いでしょう! お嬢様、下手な嘘でかばうことはありませんよ。つけあがるだけです」
宝石商はそう言って、逃げだそうとしたロージーの手をひねり上げた。
「痛い!」
「あまり手荒なことはしないで下さいませ。それで、このブローチの代金はおいくらになりますか?」
「はあ、1000ゴールドで買いましたけど」
宝石商の答えを聞いて、ベティの父親がロージーに尋ねた。
「ロージー、そのお金はどこにありますか?」
「……修道院に匿名で寄付した」
「そうでしたかロージー。それでは、スミス様、ブローチは当家で買い取らせて頂きます」
「なんだか、申し訳ありません」
宝石商はそう言って、ベティの父親から金貨を受け取り、代わりにブローチを渡した。
「ロージー、二度とこんなことはしてはいけませんよ。でなければ、また修道院に戻って貰います」
ベティの父親は威厳のある声で、ロージーに言い聞かせた。
「……」
ロージーは返事もせず、部屋に帰っていった。
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