最終話 推しと嫁と炎上
世間のニュースは人気アイドルなるの結婚で持ちきりだった。どのチャンネルを付けても、全て……。
あの日の教会での俺たちの一連が放送されていた。
くっ、だからか、だから、あのジャーマネが仕事で来ていたんだな!
「全国に……公開処刑……うわああああ」
あの日、テレビの放送局が全国から来て、なるたんの結婚をリアルで撮っていたらしい。そして、なるの炎上劇の一連は、すべて真実となって、テレビで放送されている。
そう、俺が初めてデートをした日、炎上する為に偽装デートをしたこと。その後、炎上する為に家に入れたこと。全て、自分が炎上してほしいがために起こしたことだと、堂々と発表していた。
〝なるたん結婚式にて史上最大のネタばらし〟
新聞の一面はでかでかとそんな文字が書かれている。
批判はその後止まらず、俺を刺す言葉たちが秒の速さでタイムラインを駆け巡っていた。そのスピードは、ジェットコースターに乗った時に見える景色よりも速く、鋭く、恐怖に陥れた。
ファンにとって信じたくない事なのはわかるが、やはり、一言の矢は苦しい。
しかし、時は経ち数カ月。
炎が鎮火するのに時間はかかったが、なんだかんだ落ち着いて、そんな昔の炎上は、忘れられたものとなっていた。
あんなに激しく燃えて俺たちを攻撃してきていた世界は、慣れたのか飽きたのかわからんが、すっかり平常運転になり元の生活へと変化した。もちろん、あの事実はあるわけで、熱愛だの結婚だのを批判する奴らはいるのだが、かつての過激派運動の民は、もう、平和な世界へと帰っていった。
「徹さーーん。おはよーーー」
「おう、おはよう!」
そして、俺はスーパーアイドルの嫁と一つ屋根の下、二人で今、暮らしている。
いや、もうスーパーアイドルではない。
元スーパーアイドルだ。
「はあ、芸能界にはもう二度と戻りたくない。主婦最高!」
「そんなに嫌だったんだ……」
「偽りの自分でもう疲れたのよ。徹さん、頑張って働いてね♡」
そう、彼女は炎上騒ぎの後引退し、専業主婦となった。相当、芸能界の活動に嫌気がさしていたらしい。あんなに人気者で、楽しそうにしている裏で彼女にもいろいろあったのだろうか。まあ、スターは大変だよな。小さなことで、こんなに炎上するのだから。
「あと、徹さんと結婚したかったから引退したんだよ?」
そう、彼女は恥じらいながら顔を逸らしてぽつりと言った。
しかし、俺は未だに信じられなかったりする。
俺たちは確かに結婚した。今とても幸せだ。ふたりの薬指にはリングが光り、夫婦を現している。こんな幸せはない。夢にまで見た、本当の憧れていた生活。
でも、俺は気になっている。もしかして、もしかすると、これも嘘で……炎上作りの為の結婚かもしれないからだ。引退も、ネタとしてかもしれない。もしかしたら、この後離婚して、芸能界復帰!炎上を起こして、また一躍有名に!
いやーーまさかそんなことはあるまい。
あるまい。
でも、なるはしかねない。
「炎上、超、楽しかったなあ」
「またやりたい」
いつもいつもそう呟いており、更なる炎上を求めている気がするからだ。
「なあ、なる。ひとつ聞いていいか?」
だから、俺は、恐る恐る質問を投げる。嫁は、なによ?と起きたて美人の顔で俺を睨むがひるまずに言った。
「あのさ、結婚したけれどさ」
「けど?」
ああ?と美人が歪める顔は絵になりそうだ。そして、鬼嫁になる予感もする。俺は、とにかく勇気を振り絞って聞くこととしよう。鬼だろうが、関係ない。
「この生活はネタではないよね……?」
するとその質問に、嫁は真っ赤になって、プルプルし始めた。
「ば、ばばばばばか……」
そして、俺に顔をグッと近づけて言ったのだ。
「じゃあ、本当に愛しているのか見せてあげるんだから!」
そして、俺にいきなりのキスをした。
――――ちゅっ
「なななななな……っ」
突然の熱いキスに、俺は真っ赤になって固まってしまう。
そんな俺の耳元に、その後、嫁は囁いて言った。
「でも、私の炎上は、これで終わりではないわ……」
そして、俺からゆっくりと少し離れて、嫁はあの頃と同じように大きく叫ぶ。
「これからも……これからも私の炎上についてきて貰うんだから!それが私の旦那のこれからの勤めなんだからああああ!!」
「なんだって……??俺の平穏な生活は!?」
「ふふふ……ふふふふふ」
そう言う俺の推しは、最初に会った時のような悪い笑みで久々に笑っていた。
はあ。どうやら、炎上は続くらしい。俺の推しが傍にいる限り。
私の炎上についてきなさい! 白咲夢彩 @mia_mia
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