第10話 オタク仲間
俺は世界最高になるたんを愛している。そんな俺は、この前の一件でヒーローになった。報道で、たまたま通りかかった男性として、テレビで紹介までされたのだ。俺は有名なファンの中の、もっとすごいファンとなったのである。
SNSには、〝死にかければなるたんに会えるのか〟だとか〝なるたんの為なら俺も死ぬ〟だとか、ファンの強烈なコメントが多く残っている。さすが、ファン。考えることは皆、とんでもねえ。でも、推しの為ならなんだってできる。それがファン。
さて、俺は回復し、見事復活を果たし……今日も休日を楽しむところだ。ちなみに、これから、同じアイドルグループファンの仲間とオフ会だ。俺と同じくらいの年齢の仲間と、七人でファミレスに集まるのでお店に向かっている。ちなみに全員独身だ。仲間のチーム名は〝独身同盟〟
「ここだな、みんなもういるのかな?」
お店に入り、見渡すと、すでに揃った皆が俺を待っていたので手を振り挨拶をした。
「久しぶり!皆元気にしていたか!」
「「「「「とおるううううううう」」」」
座っていた皆は立ち上がり、ファミレスの一角で、異様な盛り上がりを放っていた。店員さんは、なんだなんだとちらりと気にしている。
「お前、なるたん守ったってホントか!?」
「やっべえ、羨ましいぜ、ヒーロー!」
「いや、こいつ死ぬとこだったんだぞ、俺なら嫌だ。推しの為でも、そこまでは怖い。だからお前すげえよ」
「この手でなるたん触ったのか!?触らせろ!」
「そんな、ヒーローだなんて……ははははは」
皆があのニュースを見てあまりにも盛り上がるので、俺は照れて言葉が出ない。
しかし、そんな盛り上がりの中で、ひとり険しい顔で俺を見る者がいた。
そして、いきなりそいつは叫んだ。
「徹、お前、なるたんと熱愛しているだろおおおおお!」
「「「「「「え?」」」」」」
突然、思いもよらぬ浩平からの言葉に、周りの皆は俺に一斉に目を向けて、凍りつく。どういうことだ。何故だ。怖い怖い怖い。待て、ただのジョークかもしれねえ。そうだ、きっと浩平ジョークだ。
ジョ、ジョークだよな。まさかバレてるわけないよな……。
しばらくの沈黙の後、俺は口を開く。
「ま、またまた変な冗談を~なわけ……」
「じゃあこれはなんだ!」
「エッ!?」
ドキリとしながら、浩平が出した、スマホの画面を見る。そこには、会社最寄りの駅で俺となるたん?いや雨宮が会っている写真があった。
「待ってくれ、これはなるたんではない!後輩の……」
「嘘は良くないな、この容姿のどこがなるたんじゃないと言えるんだ!」
さっきまで楽しく盛り上がっていた、オタク仲間の目は今、俺を殺しに来ている。俺は、なるたんとのデートや今まであったなんやかんやがバレてしまったのかと、怖くなっていたが、どうやら、なるたんに激似になってしまった雨宮と会社帰りたまたま駅で話しているところを見られてしまったらしい。
「なあ、絶対お前、前からなるたんと繋がってただろ。何か言えよ!」
「待ってくれよ!違うってば、それは……」
「「「「「殺す」」」」」
やばい、皆の目が生きていない。笑っていないぞ。どうしたらいいんだ、逃げるか、いやでもそれは雨宮だ。間違いなく雨宮の写真で、今の状況だと誤解だと言える。てか、俺はなるたんと熱愛なんてしていないし、デートしたとは怖くて言えないが、ネタ作りに付き合っているだけでそちらがバレようと熱愛ではない。というか、だから、今回は雨宮だし……ああどうすればいいんだ。とにかく逃げるか、でも逃げたら認めることに……。
「あ、先輩、奇遇ですね」
すると救世主が現れる。
「「「「「「え?」」」」」」
「「「「「「なる!?!?え?」」」」」」
このオタクの修羅場に、超なるたん似になってしまった俺の後輩が現れたのだ。
突然のなるたん激似雨宮の登場に、仲間たちは頭を捻って混乱している。
「たまたま友達とランチしていたら、先輩見かけたんで。こんな大人数で何してるんですか?」
「すいません、徹の友達?先輩?え?」
「この人は職場の先輩ですけれど、なんのお集まりですか?」
雨宮は俺を指差して淡々と話している。
ナイスタイミング、雨宮。このままだと俺、誤解のまま殺されるところだったYО!
「ねえ、この人似てるけど、なるたんではない」
「もしかして、写真ってこの人?さっき言ってた後輩って……」
仲間たちは作戦会議に入り、なにやらこそこそと端で話し込み始めた。そうだぞ、YOU達。その写真も、ここに居る人も、なるたんではなく俺の後輩だYО!
「「「「「「徹、ごめん!」」」」」
そして、会議後、急に全員から勢いよく謝られた。そして、謝罪の後はいつもの空気に戻っていった。先ほどの、殺気が漂う世界がまるで嘘のように、皆がニコニコしている。
「なんだ、そういうことか。早く言えよ、徹よ」
オタクって怖え。俺の話なんか耳を傾けようとしなかったくせに。
もし、なるたんとデートをしたとか、家に行ったとかバレてしまえば、どんなことを言っても殺されてしまう気がする。はあ。気を付けなければ。
「そこのなるたん似の君!俺、気に入っちゃったよ。良ければ混ざらない?」
元気になってしまった浩平は、雨宮をこの場に引き込もうとしていた。やめてくれ、俺の後輩はいろいろと面倒なんだ。
すると、後輩雨宮は、とんでも発言をする。
「ごめんなさい、私、徹先輩の事が好きなんですよ。だから、ふたりっきりじゃないとヤダなあ。ふふふ。諦めませんからね、せ・ん・ぱ・い」
そして、自席へと消えていった。
「えーーと」
俺はさっきと違う感じの、皆からの殺気を感じた。せっかくの元に戻った平和な世界はまた、荒れ始める。
「おい、徹……」
「「「「「殺す!」」」」」
どういうことか説明する前に、俺は、リア充だの、なんだの、叩かれまくり、何故か皆に胸ぐらを掴まれたりもした。
はあ、なんて今日は、精神的によくない一日だ。
「なんだよ、なんでみんな、リア充ごときでそんな殺気やばくなんだよおおお!」
「許せん!俺たち皆、推しの為に生きると決めただろ!」
「「「「「チーム違反だ!!」」」」」
確かに、推しの為に生きると誓いあった日はあったが、違反と言えるほど、ガチなことだったのか。独身同盟って、恋愛禁止って意味なのか?独身だから、ってことではなかったのか?てか、雨宮が一方的なだけだし、違うし!違うからあああああ!
俺は、今日、誤解に誤解で誤解。もう、散々だった。
オタ友に話が通じるのは、推しへの愛だけなのかもしれない。
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