男女比の狂ったこの世界で

白銀

目覚め

 けたたましいクラクションの音と目の前に広がる強烈な閃光、一瞬の後に訪れる回る世界。

 目を開いているのか閉じているのかもわからないほど意識が混濁している?

 妙な世界で僕はただころころと転がり続ける。

 よくわからない何かと、誰かと、声や景色のようなものと、判然としない世界を自覚したと思った瞬間に僕は、目を覚ました。



「――っうぅ」


 頭が重い。

 まるで何日も続けて眠っていたようだ。

 体は凝り固まって満足に手すら動かすことができない。


「……ここ、は?」


 辛うじて動かすことのできる首から上で見まわせる限り、ここは慣れ親しんだ自室ではないようだ。

 照明が消えているのでよく見えないが、物は少なく清潔感のある部屋。

 自分が寝かされている寝具も使い慣れたものとは違うし、どうにも目覚める前の記憶が判然としない。

 どうして僕はこんなところにいるんだ?ここはどこ?

 疑問は尽きないが、体が動かない以上確かめる術はないように思う。

 段々と冴えてくる意識の中で、ぼうっと天井を見つめていると、冷静に考えれば結構な重大事に遭遇しているのではないか?という疑問が新たに湧いてくる。

 少なくともこれまでの人生で、目が覚めたらそこは知らない部屋でしたなんていう体験をしたことはない。

 それこそフィクションの世界では飽きるほど目にしてきたものではあるが、現実に体験してみればこれ程怖いこともそうないのではないか、とも思う。

 さして特徴があるようには見えない部屋だが、少しずつ持ち上がってきた恐怖心に煽られるように、何かヒントになるようなものでもないかと探し始めてしまう。

 

「ん?」


 何度か右に左に顔を向けていると、視界の端に見慣れないものが映った。

 枕元に垂れ下がってきている、これは、ボタン?か?


「――あ」


 まあ、そうだよな。

 ちゃんと冷静に考えればこんな状況になる場合、考えられるシチュエーションとしてはこれが最も多いだろう。


「病院か。ここ」


 多分これはナースコールだ。

 押したら看護士さんが来てくれるやつだな。

 おそらく日々の疲れか何かで僕は倒れたんだろう。

 徐々に戻ってきた体の感覚に合わせて動かせば、恐らく怪我のようなものはしていないと思う。違和感はあるが、痛みが無い。うん。普通に動くな。


 情けないことに、どなたかはわからないが迷惑をかけてしまった人もいるだろう。自分で救急車を呼んだ覚えはないし、どこで意識を失ったのかも思い出せない。


「はぁ~……やっぱもう年ってことか――え?」


 そう思って呟いた言葉と共に布団からゆっくりと抜き出した手を見て愕然とした。


「し、皺が……一つもない……?」


 目の前にある自分のものと思われる手は、皺ひとつない色白の、痩せた男の手だ。


「な、なんで……一体……?」


 もう一方の手も同じように目の前に持ってくれば、両方若くてハリのある肌をしていることがわかる。


「これじゃあ、まるで……」


 若返ったようではないか。

 そう思った時には体を起こし始めていた。


「ぅぐっ……頭いた……」


 なんとか体は動かせるようになったが、結構な時間をかけて上体を起こしてみれば、目を覚ました瞬間に感じた頭痛をもう一度味わう羽目になってしまった。

 一体自分がどれ程意識を失っていたかはわからないが、どうやら数時間程度のものではないらしい。

 目が覚めてすぐに体が全く動かせなかったことに加えて、この強烈な頭痛だ。

 あまり考えたくはないが、もしかしなくとも数日以上は意識を失うような何かがあったと思った方がいいかもしれない。


「いっつ……うー、鏡でもあれば一発なんだが……」


 改めて部屋を見渡せば、ここが病院であることはすぐにわかった。

 あんなでかい取っ手のついた引き戸なんて病室以外には公共施設かなんかにしかないだろう。少なくともあんな扉のついた部屋のある普通の家なんて僕は知らない。

 まあ他にも色々とあるが、それよりも今は鏡だ。鏡がなくとも自分の姿を映せるものがあれば何でもいい。

 一向に引かない頭痛を我慢して視線を移せば、備え付けと思われる洗面台があり、そこに鏡がついているのを見つけた。

 あまり動きたくはないが、顔をしっかりと見て確認しなければならない。なにせ見下ろした自分の身体がどうしても自分のものとは信じられないのだ。

 日頃の不摂生が原因でだらしなくたるんだ腹がないどころか、薄く腹筋が割れたように引き締まっているし、どこを触っても若々しい肌にしか感じない。

 次第に強まる疑念と頭痛を抱えてベッドから降りる。

 今自分に何が起こっているのか。

 ここがどこぞの病院で、原因はわからないが意識を失った自分が担ぎ込まれ、先程目を覚ました。

 ここまでは何とか飲み込める。最近、特にここ数か月は仕事が忙しかったこともあり、自分の体調管理などに気を遣っている余裕もなかったのは自覚しているし、それ以外にもストレスを感じる出来事が連続して起こっていたのも要因としてはあるのかもしれない。

 しかし、この体にどんなことがあればこのようなことになるのか?

 これが現実なのはしっかりと認識できている。

 この酷い頭痛も、この病室に漂う僅かな薬品臭も、体を動かすたびに感じる違和感も、何もかもがこれが現実であると自分に教えてくれるのだ。

 だからといって、この“若返った”などと言う言葉では表しきれない肉体の変化は、その認識すら疑ってしまう程に有り得ないレベルで“変わりすぎている”。


「――な、なん……だ、これは」


 ようやく辿り着いた鏡に映った自分の姿は、もう何十年も目にしていなかった“自分の顔”であった。

 どこを見ても小皺のひとつもなく、生気に満ちた瞳と、血色のいい肌。最近気になり始めた毛量も“戻っている”。


「これ、これは……僕、なのか?」


 自身の目で確認したにも関わらず、まだ信じることができない。

 夢なのであればまだいい。朝になって目を覚ましてしまえば、その瞬間にどんな夢を見ていたのかを忘れてしまうだろうから。

 だがこれは現実だ。

 明晰夢だとかなんだとか、感覚や意識のある夢もあると聞いたことがあるが、それには訓練が必要で、僕はそんなことしたことがない。

 夢のようだがこれは現実で、目の前に映るこれは僕自身で、信じられないことにとんでもなく若返っている。


「う、む……大体15、6歳といったところか?」


 高校に入学しているかその直前か。意識して全身を確認してみると、身長などにほぼ違和感を感じないということは、伸び盛りを過ぎた年齢だろうか。

 確か僕の身長が一番伸びたのは中学2年生あたりだ。記憶が確かなら、1年で15㎝程伸びていた。その後は中学卒業までに10㎝程伸び、最終的に170㎝半ばで落ち着いた。比較する対象があまりないので何とも言えないが、感覚的にはそのくらいあるように思う。

 髪の長さも記憶にある中では一番伸ばしていた時期のものと同じくらいある。

 後ろは肩にかかるほど、前髪は顔の上半分を隠して余りある。

 14歳頃に罹った病のおかげで可能な限り伸ばした髪がそのままということは、それ以前でもなく、それ以降であって短くする前。確かこの長い髪を切ったのは、高校に入って最初の夏頃であったはずだ。クラスメイト達に揶揄われたのが恥ずかしくて、思い切って美容院に駆け込んだのを覚えている。

 人相が別人のものであればまた違った混乱をしていたのであろうが、若かりし頃の自分と全く同じ顔が目の前にあるのを見てしまうと、何がどうしてこうなったのかは全くわからないが、自分が若返ったのだなと妙に納得してしまった。


「いや……信じられないが、過去に戻った、のか?にしても、僕は入院経験なんかないぞ。過去に戻ったんじゃなければ、一体……?」


 自分の置かれた状況がどんなものなのか理解しようにもわからないことが多すぎる。

 素直に考えればタイムリープとかそういうものなのではと思う。

 しかし、過去に戻ったのであれば病院にいるのはおかしい。通院することはあっても、入院したことはないし、こんな酷い頭痛に襲われた経験だってない。

 タイムリープがどういうものかなんてぼんやりとしかわからないが、目を覚ましたら過去の自分になっていて、経験したことが無いような状況に置かれている、なんてことがあるのだろうか?


「わからん……うーん、カレンダーのようなものもないし、日付や西暦なんかがわかればまた違うんだろうが……」


 どこをどう考えても大層異常なことが起こっているのはわかるが、これ以上一人で頭を捻っていても答えは得られそうもない。

 例えこれが予想通り過去へのタイムリープだったとしても、だからといってどうすることもできそうもないし。


「ぁぐ……頭いてぇ……とりあえずこれをどうにかしないと落ち着いて考えるとか、無理だ……」


 頭の奥で何かが蠢いているような鈍痛とでも言うのだろうか。どんどん酷くなる痛みに全身から脂汗が浮かんでくるのがわかる。


「と、とにかく誰か呼んで痛み止めでももらおう……そんで一回寝て、起きて何も変わってなければこれは完全に現実だと納得して、もう一度改めて考えてみよう」


 ベッドに倒れこみ、ナースコールを押す。

 まあ、これが現実に起こっていることなのは理解しているが、この酷い頭痛をなんとかしなければ、何を考えても良い方向に向かうとは思えない。

 まずは落ち着ける状況を作ろう。何をするにしてもまずはそれからだ。

 痛みに耐えてしばらく。どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、ようやくと感じるくらいの間を置いて反応が返ってきた。


『……こちらナースセンター。担当の桜井です。進藤様、何かございましたでしょうか?』


 どうやら、ベッドの枕元辺りにスピーカーがあるようだ。ナースコールを押せば誰かが病室まで来てくれるものだと思っていたが、内線かなにかでこちらに応答してくれたようだ。


「あー、えっと、聞こえてますか?さっき目を覚ましたんですが……」


 とにかく誰か応えてくれるならこの際何でもいい。あちらからの一方通行なら『何かございましたか?』なんて聞いてくることもないだろう。どこにマイクがあるかはわからないが、顔をスピーカーに向けて話しかける。


『――っ!め、目を覚まされたのですね?お声は聞こえておりますので、何かございましたらそのままお答えください』


 うーん、この反応。もしかしたら結構長いこと眠ったままだったのかもしれない。

 それにしても妙に謙った話し方をしているが、なにかあったのだろうか?15、6の子供相手にしては丁寧が過ぎるような。

 まあ、今はそんなことよりこの頭痛をどうにかするのが先決だ。こちらの声も問題なく届いているようなので、取りあえず要望だけ伝えて後は専門家に任せよう。


「あの、目を覚ましたはいいんですが、頭痛が酷くて。ちょっと我慢できそうにないので、何か痛み止めでももらえないかと」


『――かしこまりました。当直の先生にお声がけしてすぐそちらに向かいますので、もう少しだけお待ちください』


「あ、はい。よろしくお願いします」


 どうやらお医者さんが診てくれるようだ。薬をもらえればいいやと思っていたが、まあここは病院だしな。診てもらえるならそれに越したことはないだろう。

 とにかく今は少しでも早く眠ってしまいたい。

 この突飛な状況に加えて酷い頭痛に苛まれ、正直疲労困憊だ。完全にキャパオーバーである。

 ちょっと印象が悪いかもしれないが、痛みに耐えることに精一杯で、倒れこんだ姿勢のまま体を動かすことも辛い。先生が来たら手伝ってもらって布団に寝かせてもらおう。

 そう考えて目を瞑り、奥歯を噛みしめて待っていると、コンコンと扉を叩く音がした。


「進藤様。本日当直の川上です。頭痛がするとのことで参りましたが、入室しても宜しいでしょうか?」


「は、はい……どうぞ」


 扉の向こうから聞こえてきたのは女性の声。思ったよりも早い訪問に少し驚いたが、早く来てもらえる分にはありがたいのでそのまま入ってもらうことにする。

 体勢が変えられないので扉の方を向くことはできないが、カラララ……と軽い音がして扉が開いたのがわかる。


「し、進藤様!?どうされました!?」


 川上と名乗る女医さん?が入ってきたと思ったら、そんな風に声を荒げた。

 多分、僕が変な体勢で倒れているのを見て慌てたんだろう。まあ、自分がかなり酷い体勢になっているのはわかっているけれど、そこまで大きな声を出すほどだろうか。


「い、いやぁ、ははは。ちょっと、動くのも辛いくらいに頭痛が酷くてですね……」


 タタっと駆け寄ってきた川上先生に、自分が現在どうしてこんな変な格好になっているか言い訳じみた説明をする。

 ちょっと恥ずかしいけど、これでも結構切羽詰まっているので体裁なんか気にしている余裕が無いのだ。

 一応自分は病人のようなものだし、これくらいの粗相だったら許容してくれるだろう。してもらわないと困る、なんて思っていると、ベッドの傍まで来た川上先生が顔を覗かせた。


 え。めちゃめちゃ美人。


 まず目に入ったのは鼻の上に載せられた、銀色の細いフレームに囲われたシンプルなデザインの眼鏡のレンズ越しにこちらを心配そうに窺う綺麗な瞳。ふっくらとした桜色の唇と、スッと通った鼻筋に、どこか幼さを感じる顔立ちに見えるが、学生には決して出せないような色気も感じさせる不思議な美人だ。


「――っ!も、申し訳ありません!すぐ、離れますので!」


 一瞬頭の痛みを忘れる程の衝撃を受けたが、すぐにぶり返した痛みに顔を顰めると、何か勘違いでもさせてしまったのだろうか、折角こちらまで来てくれた川上先生がズザザっと離れて行ってしまった。

 ……いや、離れられても。


「えーっと……できれば、ベッドに上がるの手伝って欲しいんですが……」


 痛む頭を抑えつつ、突然顔を顰めたことで何かしら誤解されてしまったのではと勘案して、なるべく笑顔でそう訴える。

 僕としては早いとこ楽な体勢になって問診なり処方なりして頂きたいのだが、一人では厳しいので手を貸してもらわないと困る。

 病室の壁際まで下がって、何故か顔を真っ赤にして視線を彷徨わせている彼女には悪いが、とりあえず早急に自身の職務を思い出していただきたい。


「はぇっ!?て、手伝うって、それじゃあ、その、お、お体にふ、触れてしまいますが、よろ、宜しいのですか……?」


 盛大にキョドり倒している川上先生。

 なにが彼女をそうさせているかわからないが、ワタワタと腕を振り回して狼狽している姿も十分魅力的である。

 いや、そんなこと今はどうでもいい。

 僕も十分に混乱しているが、それ以上に混乱している様子の川上先生には一刻も早く冷静になってもらって、目の前の苦しんでいる患者をどうにかして欲しい。


「え、えぇ。触れても触っても何でも良いので、とりあえず手を貸してください……」


 自分はそれなりに我慢強い方ではあると自負しているが、そろそろ限界が近い。

 一体彼女は何を躊躇しているのだろうか。

 医師であるなら多少患者の肌に触れることにも慣れていそうなものだが、それほどまでに僕に触れるのが嫌なのか?

 あれ。自分ではわからないけど、もしかして僕、臭うとか?


「――失礼します。進藤様、お加減はいかが……川上先生?」


 真剣に自身の体臭について検証を始めようとしたところ、背後の扉からノックの音と共に新たな人物が入室してきた。

 姿は見えないが、こちらもどうやら女性のようだ。

 おそらく僕の姿も見ているはずだが、川上先生のように声をあげることもなく、それでいてこのどうしようもない空気を察したのか、壁に張り付いたまま未だにアワアワしている川上先生に声をかけている。


「あっ、さ、桜井さん!し、進藤様が、その、う、動けないそうで、手を貸してほしいと、その、おっしゃっていて!」


 「待ってました!」と言わんばかりに表情を変えた川上先生は、どもりつつも現状を説明する。

 首まで真っ赤に染め上げながら説明する彼女を滲み始めた視界で捉えながら、そんなに慌てるようなことをお願いしたのかなぁとぼんやり考えるも、とりあえず誰でもいいから助けてくれという願いで頭の中を塗りつぶされる。


「そ、それでしたら、手を貸して差し上げればよいのでは……?」


 至極真っ当なご意見ありがとうございます、桜井さん。


「あの……ホントに結構辛いので、どちらでもいいのでお願いできませんか?」


 首をブンブン横に振りながら「む、むむむ、無理でしゅ」と訴える川上先生を見ると溜息を吐きたくなるが、進退窮まった状態で放置されるのもいい加減限界なので、新たに現れた桜井さんに期待を込めて問いかける。

 いやホントにキツイんです。


「はぁ……かしこまりました。それでは失礼いたしますね」


 いつの間にこちらまで来ていたのかはわからないが、背後からふわりと香るいい匂いを感じた時には、背後から抱えられて体を持ち上げられていた。


「おわっ」


 不意打ち気味に持ち上げられたことで思わず声が出てしまったが、マジか。

 確か僕普通に50㎏くらいあったはずなんだけど……。

 あれよあれよという間に背中と膝裏を支えられたことといい、右腕に感じる柔らかな感触といい香りといい、先程川上先生の顔を見た時に受けた衝撃以上の羞恥が込み上げてくるのを、自身の頬に集まる熱で以て嫌でも自覚させられてしまった。

 うわ。お姫様抱っこだこれ。綺麗な人なのに意外と力持ちなんだなー。


「――お、下ろしますね……」


 ゆっくりとベッドに下ろされ寝かされる。

 そっと背中を支えていた桜井さんの左腕が抜かれるとともに、右腕に感じていた幸せな感触も離れていった。

 こういうのも役得と言うのだろうか。


「あ、ありがとうございます。桜井さん、助かりました」


 頬に集まった熱が、顔全体に広がっていくのを感じながら、とりあえずお礼を述べる。

 これはもちろん、一人で動けなくなっていた僕を助けてくれたことに対するものだ。決して柔らかな感触を短い時間とは言え堪能させていただいたことに対するものではない。決して。


「い、いえ。こちらこそ、その、ありがとうございました」


 川上先生に負けず劣らず顔を赤く染めた桜井さんに何故かお礼を言われてしまったが、いえいえこちらこそ大変良いものを、ええ。しばらく夜のお供は決まったようなものです。などと思わず返しそうになって慌てて口を抑える。

 いやだって、本当に良いものをお持ちなのだ。

 それこそテレビの向こう側でしか見たことないような素晴らしい双丘が、カーディガンを羽織っているとは言え、纏った薄ピンクのナース服をパンパンに押し上げて主張しているのだから、思わず感謝してしまうのも仕様がないと言うものだ。

 いや、さっきのは本当に助けてもらったことに対してのあれだから。うん。


 その後、なんとか落ち着いた川上先生に軽い問診を受け、少し強めの鎮痛剤を処方してもらった僕は、急激に湧き上がってきた眠気に抗うことができずに目を閉じた。

 問診の間も色々と気になることはあったが、それはまた明日起きてからゆっくり考えよう。

 眠りに落ちる寸前、病室を出ていく二人の女性の背中をちらりと窺い、おかしな状況ではあるが、あんな美人に出会えたのならまあ悪くはないかも、なんて下らないことを考えつつ微睡に沈んだのだった。

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