⑵
「はあ疲れた」
「疲れたね」
午後四時五十分。
俺は、浜部さんと共に休憩室にいた。日々の業務終了前に、一日の総括を書くのが俺たち研修生の課題だった。従業員の人達はみんな業務中で、休憩室には俺たち二人しかいなかった。
「渡君、今日はレジ応援ありがとね。レジの人たちも感謝してたよ」
「本当?良かった。浜部さんは今日どうだった?」
俺は、浜部さんに尋ねた。
「うーん、てんやわんやだったかな。お客さん多いし、カゴとかリサイクル品の回収で動き回ったし。渡君は?」
「こっちもそんな感じかな。あ、爺さんに卵が無いってキレられたわ」
「あ、私も怒られた。大変だったでしょう?」
「いやもう本当に大変でさ。何言っても聞いてくれなくて。それに後で食品のチーフに報告しても「あ、そう」で終わりだし。報告しなくても良いのかすりゃ良いのかよく分からん」
「あれ、渡君今青果なん?」
俺達はこの二ヶ月、様々な部門を経験しながら働いている。俺が未経験なのは、もう青果部だけだった。
「うん、今日から」
「そうなんや。そういえば、明日セミナーやったっけ?」
「確か。来月からの配属店舗も告知されるはず」
「じゃあ、明日はここに来なくて良いんやね」
それを聞くと、お互い気が楽になった。明日は現場に来なくても良いのだ。
「浜部さん、前のセミナーの時店に来て大慌てやったもんね」
「いやあ、それ言わんといて」
浜部さんが照れ笑いを浮かべて、俺の肩を叩いた。
錯覚かもしれないが、この二ヶ月近くの間で、俺たちの距離は近くなった気がする。最初はソーシャルディスタンス確保のため、ジグザクに配置された椅子の通りに座っていたが、今では隣り合って座っているし、こうして気軽に話し合える。
お互い、同じ立場を共有しているせいもあるのだろうが、積極的にしろ消極的にしろ、女の子と親しくなるのは、悪くない。
うん、悪くない。
ふと、甘酸っぱい記憶が蘇る。
中学、高校と同じ学校で、仲の良かったあの子との登下校を思い出す。
あ、ありゃダメだ。最終的には最悪の形で絶縁したんだった。
「渡君、業務進行シートもう書けた?」
「え?あ、うん」
懐かしく苦い記憶は、浜部さんの声で掻き消された。
「じゃあ紙出しに行こっか」
俺達は椅子から立ち上がり、休憩室を後にした。
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