完結主人公達のエンドロール

マックラマン

エンドロール

 エンドロールも終盤。ボクが主演の映画は酷いものだった。視聴者はボクしかいない。評価は五点満点で零点。

 ……零点を含めたら六点満点評価じゃね? だってほら、零点、一点、二点、三点、四点、五点……。ほら、六点満点評価だよ。アハハ。

 ……死ねよ。クソつまんねえよ。こんなつまらない指摘しかできないから、人生もつまらなくなるんだろうな。なんていうか思い返してみると、展開が読めすぎる人生だったんだよ。

 ほら、よくいるじゃん。すぐに死ぬ奴。死亡フラグをバッチリ決めていくから死ぬのが予想できる奴。「俺はこんなところにいられない! 部屋に戻るぜ!」だとか、「帰ったら結婚しよう」だとか、そんなことを言って死んでいくやつ。まさにボクがそれ。

 ボクが建てた死亡フラグ? そんなの聞いても面白くないよ。だから絶対言わないよ。何を引き合いに出されても言わないよ? ……え。百万円? 言っちゃおうかな。どうしようかな……。やっぱり言わないよ。

 とまあ、ここまででなんだかんだ察していただけたかと思うけど、ボクは死んだんだよな。

 死因は襲撃。

 襲撃だぜ? それだけはボクの人生で誇れることだ。

 ダーウィン賞って知ってる? 愚かな死因で死んだ人に贈られる皮肉たっぷりのまさに贅肉のような無駄不名誉なのだけど、ボクはその不名誉を賜るにふさわしい人間だと思う。

 ボクが愚かにも襲撃された理由が気になる? やだよ。言わないよ。これだけはたっぷりともったいぶらせてもらうよ。だってそれはボクのつまらなくて退屈で薄くて白紙な人生スープの中で唯一の具だから。そのカードを切ってしまったらボクには何も残らないんだから。

 じゃあ、何の話をするのかって。そうだな。……じゃあこんな話はどうかな? ボクが好きだった作品の中に、異世界へ転生するという作品があってね。……異世界って何って? おお、異世界の説明からしなくちゃダメ? この作品を覗いている時点で異世界転生を知らないなんてことはないと思ったんだけど。

 ……仕方ないな。

 異世界って言うのはね、文字通り、異なる世界のこと。受け入れるのには時間がかかるかもしれないけど、君が今生きている世界は数ある世界のうちの一つに過ぎなくてね。

 ……君が住んでいる世界はどんな世界なの? ……へえ。情報そのものが禁止されて、テレビも本も新聞もラジオも、あらゆる情報媒体が燃やされたディストピア世界ね。

 ……うん。じゃあ、異世界転生について知らなくても仕方がないのかもしれない。ごめんね? なんか異世界転生について知ってるのが当然みたいな態度で話しかけちゃってさ。謝るよ。ごめん。

 とまあ、話がずれたけど、異世界については何となくわかったよね。じゃあ次は転生についてだ。と言っても、転生という言葉は別に珍しいわけでもない伝統的な言葉だから説明はいらないかな。まあ、簡単な言葉にしてみるなら、生まれ変わりってやつ。自分の意識や記憶を保ったまま、違う生命に生まれ変わる。

 そんな異世界転生を題材にした小説が流行っているんだよ。ボクがいた世界ではね。

 どころか、聞いて驚け? 実際に異世界転生を経験した奴までいたんだよ。もとは違う世界で惨めな生活を送っていたとか言ってさ。こっちの世界に来てから羽目を外して暴れまわる奴とかいてさ。そういう奴は本当に迷惑だった。

 ボクの仕事の都合上、そういう人間とは良く出会ったんだ。嫌いだったなぁ。本当。嫌いだったなぁ! 本当!

 でもさ、そういう奴の中にも良い奴がいてさ。……って、おっと危ない。自分の身の上話してしまうところだった。その話は僕の最後の砦だから、とっておきの時まで話さないよ。そのとっておきが生きているうちにやってくるかどうかは分からないけどね。

 それで、ボクは異世界転生者になることにした。

 おっと。突然の急展開。すまないね。でも慣れて? ボクは昔から話に脈絡がないと怒られることが多かったんだけど、別に直すつもりもないんだ。だから慣れてくれ。

 あ、そういえばごめん。ボクは皆さんに嘘をついていた。実はボク、まだ死んでないんだよね。死因は襲撃とか言ったけど、実はその襲撃から間一髪逃げ切ることが出来ちゃってさぁ。

 正直、生きることにそこまで執着はしてなかったんだけどね。でもボクのことを襲撃してきた奴らに殺されるのは少々業腹でさ。こいつらに殺されるくらいだったら、寧ろ生き延びてやろうじゃねぇか、つって。

 襲撃から命からがら逃げきったボクは、これからどう生きてやろうかと考えた。その時思いだした。異世界転生者って妙な能力を持った奴がいっぱいいたなって。だからボクも異世界転生者の中に混ざっちゃえば色々誤魔化せるんじゃないかと思って。

 だからボクは異世界転生者。今日から。

 異世界転生者の……名前はそうだな……ゲンテンとして生きて行こう。

 エンドロールは始まったばかりだ。

 

 2


 まず何をしようかと考えた。異世界転生者って何をして生きているんだろう。

 前に出会った異世界転生者は、どこからともなく現れた美少女を片手に持ちながら、自慢げに連れ回していたっけ。

 知ってるかい? あれって、神の御加護なんだぜ? 異世界転生って一種のセラピーなんだよ。異世界転生者の穢れた魂を浄化するために、綺麗な魂を持つ美少女と良い感じの関係にさせて穢れを吸い取ってもらうという……。

 おっと、これは機密情報だったかもしれない! もしくはボクの作り話かもしれない!

 よし。じゃあ、まずは女の子と仲良くなろう。異世界転生者は女の子と仲良くしないとダメだからな。

 ボクは通りがかった女の子に話しかける。

「あの、すいません」

「どうしました?」

「仲良くなりませんか?」

「いいですよ」

「まじか」

 本音の、心の奥底からの『まじか』だった。

 仲良くなるってめちゃくちゃ簡単なんだな。びっくりした。異世界転生者になる前は友達なんて一人もいなかったから、初めての友達にちょっとだけ嬉しくなる。

 あ、違うよ? 友達がいなかったというのはね。友達という概念がなかったという意味なんだよ。ボクが暮らしていたところは本当に世間の常識からかけ離れたところでね。

 女の子がボクを見ている。

「失礼かもしれないけど、貴方は女の子? それとも男の子?」

 そんなことを聞いてきた。

「あ、どっちがいいですか?」

「?」

 女の子は首を傾げていたけど、そのうちに歩き出した。

「あれ、ついてこないの?」

「え。着いて行っていいんですか?」

「いいに決まっているじゃない。だって私たちはもう友達でしょう?」

 えー。この女の子ヤバー。初対面の人間、しかもまだろくに会話すらしていない人間を、どうしたらそんなに信頼できるのー?

 もしかしたら話しかける女の子を間違えたかもしれないぞ? ボクも相当やばい奴だけど、この女の子も相当やばい奴なのでは? そうだよ、きっとそうに違いない。……でもまあ、別に良いか。ヤバくても。どうせこれはエンドロール。視聴者はどうせボク一人だ。

 女の子は籠を手に持っていた。

「その籠の中身は何?」

「別に大したものは入っていないわよ。食料と、石鹸と、裁縫糸と、マジックポーションと、手錠と首輪」

「へえ。まあ、大したものは入っていないね……いや手錠と首輪⁉」

「え、ええ。なにかおかしいかしら……?」

 おっと。この子は思ったよりヤバいのかもしれないぞ。

 てか、手錠と首輪ってどこに売ってるものなのさ。金物屋さん?

「手錠と首輪は結構珍しいと思うんだけど、そんなことはないかな」

「あ、まあ、そうかもしれないわね。でも、私の家にはこれを常時つけている子がいるから、もう見慣れちゃった」

「えっとぉ。それはペットとかそんな感じなのかな?」

「ペットだなんて、そんなことあるわけないじゃない。ペットだったら首輪で十分でしょ?」

「そ、そうだねー。じゃあ、何かな。犯罪者でも匿ってるとかそんな感じ?」

「ちょっと惜しいかも」

「惜しいの⁉」

 女の子は良い笑顔を見せてくる。ボクの中で女の子のヤバさメーターが振り切り始めているぞ? あんまりヤバさが極みがかってると、ボクもそのうち逃げ出すぞ?

 女の子はボクを見て言った。

「私の家には魔王が住んでるの。まあ、魔王って言っても元魔王だけどね」

「う、うっそだぁ」

「嘘なんてつかないわよ」

 なんか、嘘じゃない気がしてしまうのが怖いなぁ。

 元魔王と言えば、フレデリック・ロバタの事だろう。

 フレデリック・ロバタ。歴代魔王の中でも一番若く、それでいて一番狂暴だった魔王である。人間の土地を侵略することにも積極的で、フレデリック・ロバタが魔王になってからは魔物たちの平均レベルが上昇し、村や町が襲われまくって甚大な被害が出た。商業にも影響を及ぼし、フレデリック・ロバタは魔王史上一番人間を困らせた魔王と言えるだろう。

 しかし、困らせただけだ。殺した人数は一番少ない。

 フレデリック・ロバタは集団行動を好まなかった。ロバタが人間の領地を襲う時はいつも孤独だった。孤独に戦い、人間の領地を奪いまくったのだから、歴代魔王最強も頷ける。

 そして、フレデリック・ロバタの最大の特徴は、魔物の癖に人間みたいな美しい人型を採用していることである。本来の姿が人間に似ているのか、それとも高い知性で人間の姿に似せたのか、どちらかは定かではない。

 しかし、フレデリック・ロバタ元人間説が流れるほどには人間に似ていることで話題になった。

 そんな魔王を匿っているというこの女の子。

 この女の子は一体何者なんだ?

「あの、そういえば、まだ名前を聞いてなかったですよね。ボクはゲンテンです。さっきそう決めました。貴方の名前を聞いてもいいですか?」

「ああ、そういえば自己紹介も何もしていませんでしたよね。ごめんなさい。私はパイプリップと呼ばれています。昔はアレキサンドラ・ボイルオーバーとも呼ばれていましたけれど、その名前は捨ててしまいましたわ」

「うわーーーーーお」

 アレキサンドラ・ボイルオーバー。その名前は聞いたことあるというか、その名前を知らない奴はいない。

 彼女はいわゆる、悪役令嬢だ。悪役令嬢物の小説は人気があるが、彼女はその悪役令嬢そのものだ。

 彼女は学生時代、現王妃であるミミミリアという女性に暴言を浴びせたり、泥をぶっかけたりしまくった。そのせいで王子に嫌われ、結局絞首刑になったのだが、絞首刑の前日になって彼女は世界から姿を消したのだ。

 しかしまさか、生きていたとは。しかもこんなバッタリ出会ってしまうとは。しかもそんな彼女が元魔王を匿っているとは⁉

 どんな偶然だよ。というかこの悪役令嬢。元魔王の力を使って国家転覆でも企んでいるんじゃないだろうな。

「驚いた? ふふ。秘密を知ってしまったわね。この秘密を他の誰かに話したら地の果てまで追いかけて殺すから、覚悟しておいてね」

「承知いたしました」

「じゃあ、帰りましょ。ゲンテン」

 そう言って、パイプリップは歩き出した。

「ま、まあ、元魔王を匿っているんだから。ボク程度を相手にするのなんて平気だよなぁ」

 変に納得しながらボクは彼女の後に着いて行った。

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