プロローグ6
「みんな~~、盛り上がってるかにゃ~~!?」
「「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」
「カノン可愛いよぉぉぉぉおおおおおおお!!」
D《ダンジョン》・A《アイドル》のマスコット担当である
「まだまだ盛り上げていきますわよ!! 最後までついて来てくださいまし!!」
「「いぇぇええええええええええええ!!!」」
「シオーン!! 最高だよぉぉおおおお!!」
D・Aのしっかり者お姉様担当である
「熱中症ニハ、気をつけて」
「「心配してくれてありがとぉぉおおお!!」」
「ナーシャたん
少し前からD・Aに本加入したロシアの歌姫アナスタシア・ニコラエルことナーシャが気を遣うような台詞を告げると、ファンたちは彼女の優しさに歓喜し、中には号泣してしまう者がいたり、注意した側から昇天しかかっている者もいた。
「皆ぁあああ、今日は来てくれて本っ当にありがとう! 今日から始まるD・Aのサマーライブ! 私達と一緒に楽しんでくれたら嬉しいな! 一緒に今年の夏を盛り上げていこーね!!」
「「勿論だぁぁあああああああああああ!!!」」
「ミオーン! 俺達はどこまでもついていくよぉぉおおお!!」
D・Aのリーダー的存在でもある正統派アイドルの
季節は夏真っ盛り。
うだるような暑さの中、東京にあるライブコンサート会場に約二万人の観客がぎっしりと集まっていた。ライブ会場は光輝く星空にも劣らぬほどライトアップされ、どこかで打ち上がっているであろう花火の音を掻き消すぐらい盛り上がっている。
お盆休みを挟んだ、長期夏季休暇の初日の土曜日。
『歌って踊って戦って』というコンセプトで、大手アイドル事務所から二年前に発足されたアイドルグループD・Aの、長期間に渡るサマーイベントの一日目に、D・Aは東京にあるライブコンサート会場でライブを行っていた。
ロシアの歌姫であるアナスタシアがD・Aに本加入してから、初めての大きなライブ。
チケットは予約受付を開始した瞬間からサーバーが落ちてしまうほどアクセスされ、即刻完売されてしまった。
元々人気絶頂であるD・Aだったが、ファンたちはアナスタシアを絶対に生で一目拝みたいと息巻いて、この機を逃すまいとチケットを手に入れるために奮闘したのだ。
お蔭でライブ会場は満員。
午後五時からスタートし、現在は午後の七時頃。会場の熱狂はピークに達していた。
D・Aの姿を目にして、生歌を聞き、観客たちは多いに楽しんで、感動して涙を流す者もいる。それだけD・Aが多くのファンから愛されている証であった。
全身から汗を流すミオンは、マイクを唇につけると、ライブに訪れてくれたファンたちに向けて最高の笑顔を浮かべながら叫び声を上げる。
「みんなーーー!! 最後まで一緒に楽しもうーーーー!! いくぞーーーーー!!」
「「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
ピークを越えてさらに盛り上がり、D・Aとファンたちは最後の最後まで一緒に楽しんで、サマーイベント一日目のサマーライブは大成功を成し遂げたのだった。
◇◆◇
「づ、疲れたにゃ~~」
「久しぶりのライブでしたけど、上手くいって良かったですわね。流石に疲れましたけど」
「でも楽しかったよねぇ。やっぱりライブって最高だよ」
ここは東京にある、タワーマンションの一室。
D・Aの事務所兼、メンバー全員が生活を共にしている場所だ。
カノンはソファーでぐったり寝転がり、シオンは椅子の背もたれに身体を預け、ミオンは床に座ってスポーツドリンクを飲んでいた。全員疲労困憊といった様子で、今にも寝落ちしそうである。
ライブが大成功に終わり、事務所に帰ってきたD・Aたち。
久しぶりの大型ライブということもあって大いに張り切り、真夏の暑い中に長時間ぶっ続けで歌って踊っていた為、いつもレッスンで鍛えている彼女たちでも流石にダウンしてしまった。
ライブ中はアドレナリンが出まくってなんとか最後まで体力が持ったが、終わって帰ってきた今は電池が切れたかのようにぐったりしている。それでも、最高に盛り上がったライブを思い返して余韻に浸れるぐらいは、興奮は収まっていなかった。
「みんなお疲れ、最高のライブだったわよ」
「だよね!! アンナちゃんもそう思った!?」
「ええ勿論。貴女たちは私が知る限り最高のアイドルよ。貴女たちのマネージャーになれたことを誇りに思うわ」
「珍しいにゃ……アンナちゃんがカノンたちを褒めるにゃんて」
「ふふ、明日は雨が降りそうですわね」
ミオンたちを労うのは、D・Aを担当している敏腕マネージャーの関口アンナだ。
裏方の彼女も今回のライブを成功する為にずっと前からあちこち奔走してきて、無事に成功したライブを見届けて心の底から安堵している。
まぁ、関口の場合は鉄仮面で表情に出ることは中々ないのだが、数年共にした仲のミオンたちはちゃんと
「でも、浮かれてはいられないわ。D・Aのサマーイベントは始まったばかり。明日もライブだし、月曜日から金曜日はテレビ出演にダンジョン探索。土日はまたライブなんだから、気を引き締めていきましょ」
「ぐぇぇ……しんどいにゃ~」
「改めてスケジュールを見ますと、大変どころの話じゃないですわね」
関口が今後の話を伝えると、カノンとシオンが疲れたようにため息を吐く。
お盆休みを挟んだ夏季長期休暇。
この期間にD・Aは九日に渡ってサマーイベントを開催する。
最初の土日はライブ。平日の月曜日から金曜日まではテレビの生放送に出演したり、ダンジョンの新階層探索や孤島ステージでの催し。最後の土日には、総仕上げとなるライブを再び行うこととなっている。
休み無しの超過密スケジュール。
初日のライブだけでも疲労困憊なのに、激動のサマーイベントを最後までやり遂げることができるのだろうか。カノンとシオンがそんな風に不安を抱いていると、ミオンが両手を握り締めて力強く宣言した。
「大丈夫、私たちなら絶対やり遂げられるよ!!」
「カノンもそのつもりにゃ。ぶっ倒れたってやってやるにゃ」
「ええ、ファンの皆様を裏切る訳にはいかないですものね」
熱い感情を出すミオンに、カノンとシオンも賛同する。
過酷で辛いことは始まる前から分かっていたことだ。それでも、仲間や多くのファンがいれば楽しいし、このサマーイベントをやり遂げた景色を見てみたい。
そして、これを乗り越えればきっと大きく成長できる。そう信じて、全力を出し切るのみだ。
「サマーイベントが終わったら、羽根でも伸ばしに皆で旅行でも行きましょうか」
「いいねそれ! 行きたい!」
「いいですわね。ここのところ働きづめでしたから、少し休みたいですわ」
「今日のアンナちゃんは不自然なまでに優しいにゃ……なんだか恐いにゃ……」
サマーイベントをやり遂げたご褒美に旅行に連れて行ってあげると関口が言うと、ミオンとシオンは嬉しそうに微笑んだ。カノンだけは、珍しく見せる関口の優しさに後が恐いと若干震えているが……。
そんな会話をしていると、自分の部屋で休んでいたアナスタシアがリビングに出てくる。彼女はミオンたちに顔を向けて、申し訳なさそうに口を開いた。
「みんなに謝らなきゃならないことがある」
「ど、どうしたのにゃ!?」
「どこか怪我でもしたのですか?」
「今日のライブでミスっちゃったとか? それなら全然気にしなくていいよ!!」
深刻そうな雰囲気を醸し出すアナスタシアに、カノンたちが困惑しながらも心配し、励まそうとする。
アナスタシアは首を横に振ると、皆に向けて頭を下げた。
「来週の金曜日から日曜日、私は母国に帰らなければならない。だから、土日のライブには参加できない……」
「そんにゃ!?」
「母国に帰るって……そんな急に言われましても……。どんな用事がありまして? わたくしたちの大事なライブを投げ捨ててまで帰らなければいけませんの?」
「詳しくは言えないけど……家族を救うための……」
「ええっ!?」
「家族を救うって……そりゃ一大事な話じゃにゃいかにゃ!?」
俯きながら母国に帰らなければならない理由を告げると、カノンたちは驚いてしまう。
詳しい説明は省かれてしまったが、アナスタシアの深刻そうな様子からすると、決して嘘を言っている訳ではないだろう。
そして家族を救うという話が本当ならば、ライブよりも優先すべき用事だ。D・Aの立場からすればアナスタシアにライブを抜けて帰国して欲しくはないが、家族を救うといった重要な用事ならば引き留める訳にもいかない。
勝手なことを言って申し訳なさそうに頭を下げているアナスタシアの下へ、ミオンが歩み寄って力強く抱きしめた。
「そっか……それなら仕方ないよね。家族を救うためだもん。こっちの事は私たちに任せて、ナーシャは気にせず家族を救ってよ」
「ミオン……ありがとう」
「ねっ、アンナちゃんもいいよね?」
ミオンが振り返って問いかけると、関口は頭が痛いといった風に眉間を摘まみながら、深くため息を吐いた。
「まぁ、貴女のタイミングで母国に帰るというのは、本加入する時の条件で言われてましたのでいいですけど……何もライブの日に帰らなくても……。帰国する日付を変更することはできないの?」
「できない。さっき連絡が来たんだけど、私の家族を助けてくれる人がこの日じゃなきゃ難しいって……それを過ぎるとまたいつになるか分からないって言われた。勝手なことだとは思ってる。みんなにも凄く迷惑をかけてしまうけど……私はどうしても帰らなければならない」
アナスタシアがD・Aに本加入する際、一つ条件をつけた。それは自分のタイミングで、一度母国に帰らして欲しいというものだった。
関口はその条件を呑んだ為、強く引き留める事もできないが、何も大事なライブの日ではなくてもいいだろうと説得を試みるも、アナスタシアにも引けぬ事情がある。
アナスタシアは家族を救うためには、とある人物の力を借りなければならないのだ。そしてその人物が指定した日が、運悪くライブと重なってしまう。
一応彼女もD・Aのことを考えて日程をズラせないかと聞いてみたが、それは難しいと言われてしまったのだ。
それも仕方ないだろう。
アナスタシアを助けてくれる人物は、そう簡単に日本を離れられる人物ではないからだ。
D・Aと家族を天秤にかけて、苦渋の選択を迫られたアナスタシアは家族を優先した。
アナスタシアの決意は揺るがないと判断した関口は、「わかったわ」と言って、
「行ってらっしゃい。ライブはなんとか頑張るから、貴女は気にせず家族を助けることに集中しなさい」
「ありがとう、アンナ」
「ただし、帰国するまでのイベントはこれまで以上に頑張ってもらうからね」
「わかった」
「頑張ってくださいまし」
「こっちはカノンたちに任せるにゃ! ナーシャの分まで頑張るにゃ!」
「ナーシャなら大丈夫! 家族を助けて、無事に帰ってきてね!!」
「ありがとう……必ず家族を助けて戻ってくるから」
皆から温かい言葉を送られたアナスタシアは、涙を流しながら感謝を告げたのだった。
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