第130話 固有武技
静寂が場を包む中、先に踏み出したのは俺だった。
強く地面を蹴り上げ、彼我の距離を詰める。俺の予想では、彼の間合いに入った瞬間に剣を振っても遅すぎるくらいだろう。
ならば、間合いに踏み入れた瞬間に攻撃がかち合うように剣を振るしかない。
「はぁぁあああああああああ!!」
咆哮と共に、誰もいない空間に剣を振り下ろす。その瞬間、剣と俺の境界が曖昧になり、これまでよりも最高速度の斬撃を繰り出すことができた気がした。
“赤い閃光”を纏った俺の剣が振り下ろされる刹那、目の前で“黒い閃光”が煌めく。
「『心刃無想斬』」
「――ッ!?」
尋常じゃない衝撃が腕を襲い弾かれる。体勢を崩されたところに、切っ先が首筋に添えられた。
「はぁ……はぁ……」
「……ふむ、これまでのようだね」
御門さんの言葉を合図に、信楽さんが刀を鞘に戻す。
完膚なきまでに負けたことよりも、最後の一撃が脳裏を離れなかった。痺れる手のひらと、剣をじっと見つめる。
今のはなんだったんだろう……まるで俺の腕と剣がぐちゃぐちゃに混じり合ったような、延長線上で繋がっているような感覚に陥った気がする。
(剣と俺が同化……いや……“俺そのものが剣だったような”)
言いようのない感覚に包まれていると、ぽんっと肩を叩かれる。
それで現実に引き戻されて、はっとして振り返ると、灯里の笑顔が目の前にあった。
「お疲れ、士郎さん凄かったよ」
「ああ、うん。そう……かな」
「そうだよ! 特に最後なんて手に汗握る展開だったんだから。僕ぁ感動したよ!」
なんか島田さんのテンションがやたら高いな。そんなに良かったのだろうか。自分では分からないからなぁ。後でダンジョンライブ見てみるか、自分でも確認したいし。
「少し気になったのですが、最後の攻撃で士郎さんの剣が赤く光っていたような気がするのですが、なにかスキルやアーツを発動したのですか?」
「えっ、そうなの?」
楓さんに聞かれるが、首を傾げてしまう。
剣が赤く光っていたのか。確かに思い返してみれば光っていたような気もしなくないけど、無我夢中だったのであまり覚えていない。
スキルもアーツも使っていないと答えると、彼女はそうですかと怪訝そうに頷く。
すると不意に、御門さんが「発動していたよ」と横から告げてくる。
「あれは紛れもないアーツだよ」
「でも俺、アーツを発動した覚えが無いんですけど」
「僕の予想だけど、条件を満たした時に発動するタイプのアーツだと思うよ。これも予想でしかないけど、今のは信楽さんと同じアーツなんじゃないかな」
「信楽さんと……」
そういえば、信楽さんの最後の斬撃は黒く光っていた気がする。何か
アーツを使っていたというのは間違いないだろう。
「因みに黒い斬撃は心刃夢想斬といって、信楽さんの
「ユニークアーツ?」
ユニークアーツってなんだろう。今まで聞いたことないけど、ユニークスキルみたいなものだろうか。疑問に思っていると、物知り博士の楓さんがすぐに説明してくれる。
「ユニークアーツとは、
「そのと~り。五十嵐君が言ったようにユニークアーツはレベルを上げれば覚えられる訳じゃないんだ。なにかのキッカケ、なにかの条件が偶然積み重なった時に奇跡的に取得することができる。なので威力や性能は通常アーツとは一線を画すよ。そ~し~て、僕の見立てではシロー君が放った赤い斬撃も心刃夢想斬だと思われるね」
「えっ、俺が信楽さんのユニークアーツを?」
皆の視線が信楽さんに集まる。彼はガシガシと後頭部を掻くと、小さなため息を吐いてから怠そうに口を開いた。
「ああ、そうだな。てめぇの斬撃はおれの技だった。腹立つことにな」
「俺が……信楽さんのユニークアーツを……」
技自体は信楽さんのものだけど、俺だけのアーツ。固有というワードに特別感があって、なんだか無性に嬉しくなった。
拳をぎゅっと握り締める。気のせいかもしれないけど、つい今し方より成長しているのを実感できた。
「作ってやるよ」
「へ?」
「なに間抜けた声出してやがる。てめぇの武器を作ってやるって言ってんだろ」
「あ、ありがとうございます!」
「この際だから聞くが、他に作って欲しい奴ぁいるか」
「おっなんだよ信楽さん、今日はやけに機嫌が良いじゃないか。シロー君が自分の技を使ってくれたのがよっぽど嬉しかったんだね」
「うるせぇ、おめぇは一々余計なこと言うんじゃねぇよ。そんで、どうすんだい」
「はいはい! 私も作って欲しいです!!」
真っ先に灯里が手を上げる。それに続いて、五十嵐さんたちも次々に立候補する。
という事で、皆も俺のように信楽さんと一戦交えることになった。
ギャラリーでずっと見ていたけど、やっぱり信楽さんは凄いなと改めて気付かされる。
灯里の四方八方からの速射を欠伸交じりに弾いていたし。
俺が知ってる限りでは一番上手いタンクである五十嵐さんを、真正面から破っていた。一瞬の隙を突いて、針の穴を通すみたいに刺突を繰り出していた。
島田さんはヒーラーだったのだが、本人の希望で死神の鎌で戦っていたが、残念ながら数秒で終わってしまった。
一番粘ったというか、見応えがあったのはメムメムだった。やる前は全然乗り気じゃなかったんだけど、いざ始まったら魅入るほどの激戦を繰り広げていた。それでも最後は一瞬で距離を詰めた信楽さんに軍配が上がったけど。っていうかあの人、なんで初見の魔法攻撃を避けられるんだよ。
一通り実力を見た後、信楽さんは俺たちにこう言った。
「来週の土曜あたりにはできているだろうから、それくらいになったら取りに来な」
「ありがとうございます。すいません、因みになんですけど、いくらぐらい払えばいいでしょうか」
オーダーメイド、しかも信楽さんが作る武器だからきっとお高いんだろうなぁと戦々恐々しながら問うと、彼はしっしと手を振って、
「おれぁ
◇◆◇
「じゃあ御門さん、信楽さんを紹介して頂いてありがとうございました」
「うん、僕も良いものを見せてもらったし、楽しかったよ」
信楽さんに武器製作を頼んで別れた後、俺たちは帰還することにして自動ドアを探した。
無事に見つけたとこで、御門さんとも挨拶を交わす。
「君達のダンジョンライブ、楽しみにしてるからね。頑張ってくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
別れの挨拶をして、俺たちは自動ドアを潜って現実世界に帰還したのだった。
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