第102話 島田紗希

 


 ギルドに帰ってきた俺たち。

 今回も昨日と同じく冒険者に注目される中、認識阻害の魔術でスルーしていく。

 換金所でアイテムを換金すると、スタッフから予想外なことを提案された。


「許斐様、星野様、島田様は銀級に昇格できますが、いかがなさいますか?」


「えっ、銀級になれるんですか?」


 俺たちはそれほどギルドに貢献していないのに何故昇格できるようになったのかスタッフに尋ねると、どうやら今回ドロップした王魔石を換金したことによって貢献度がかなり上がったそうだ。


 王魔石はキングモンスターしかドロップせず、またドロップする可能性も低いので希少価値が高く、貢献度が大きく上がるらしい。

 王魔石の換金はこれで二回目なので、銀級昇格の条件を満たしたそうだ。


 そういえば俺と灯里はゴブリンキングの王魔石を一回換金してたっけ。


 俺と灯里だけでなく島田さんも上がるのは、俺たちよりずっと前から冒険者をしていたから元々貢献度は昇格近くまで溜まっていたそうだ。

 楓さんに限っては現時点で銀級で、メムメムは冒険者になったばかりだから、今回昇格するのはこの三人になる。


 俺はみんなに相談した。


「どうする?」


「いいじゃん! なっちゃおうよ!」


「僕もなろうかな」


「銀級になった方が色々ギルドからのサービスも上がるので、昇格した方がお得ですよ。金級になると少しだけデメリットが出てきますが、銀級は今のところメリットしかありませんから」


「よし、じゃあ銀級になろう」


 ということで、銀級に昇格する旨をスタッフに伝える。

 今ある銅級の冒険者証を渡すと、五分くらいで新しい銀級の冒険者証が渡された。

 感動しながらそれを眺める。


「おお……俺もついに銀級か」


「これでやっと、いっぱしの冒険者になったって感じがするね!」


「やっぱり銅より銀の方がかっこいいよねぇ」


 しばらく嬉しそうに冒険者証を眺めていた俺たちは、着替えなどを済ませてエントランスに戻る。


 現在の時刻は午後二時頃。

 午後に入ってすぐにボス戦だったから、いつもより早く探索を終えてしまった。


 まだ帰るには早いし、折角二十階層を踏破したのでそれのお祝いに祝勝会でもしようかと皆に提案したら、島田さんがスマホを見た後こう尋ねてきた。


「今妻からメッセージが来たんだけど、この後皆に会えないかって。それでもしよかったら、急なことで悪いんだけど許斐君の新しい家にお邪魔してもいいかな?」


「大丈夫ですよ。元々島田さんと奥さんを家に招待するつもりでしたし。家もここから近いですし」


「ありがとう! じゃあ妻に最寄り駅に来るよう伝えるね!」


 どこか食べに行こうと思っていたが、別にうちでも問題ない。

 それにメムメムも島田さんの奥さんに会いたがってたしな。


 それから俺たちは、電車を乗り継いで最寄り駅に向かう。

 二十分ぐらい待っていると、島田さんの奥さんがやってきた。


「いやいや、急な申し出を受けてくれて誠に感謝ですぞ。いつも夫がお世話になっておりまする。島田 紗季さきと申します。夫婦揃って、今後ともよろしくお願い致しますぞ」


「は……はい。よろしくお願いします」


「ははは、ごめんね。紗季ちゃんはちょっと変わってるんだ」


「おおおお! お主がメムメム氏であるか!? 動画で見るよりもふつくしいでござるよ! あと耳が長い!」


「シロー、ボクより濃いやつ久しぶりに会ったよ……」


 島田さんの奥さん――紗季さんは、パンチがあるというかキャラが濃い女性だった。

 長い髪と、大きな丸眼鏡とそばかすが特徴的な可愛らしい女性。私服も普通にセンスが良いと思うけど、喋り方や雰囲気が独特だった。


 なんというか、ひと昔前に秋葉に存在したポロシャツをズボンにインして大きなリュックを背負っているTHEオタクの方々と同じ匂いがする。


 紗季さんに圧倒されていると、楓さんが違う方向に目線を送りながら口を開いた。


「怪し気な人が私たちを見てます」


「本当だ」


 彼女の視線を追って一瞥すると、グラサンをかけている男性が柱の陰に隠れて俺たちを見ている。

 全然目に入らなかったけど、一度見ちゃうと凄く気になるな。

 なんだあの人と怪訝に思っていると、紗季さんが「あー」と言って、


「あの方は政府が寄越してくれたボディーガードですぞ。出かけると伝えたら遠くからついてきてくれたでござるよ」


「あー、なるほど」


 そういえば俺たちにも最初、護衛としてボディーガードをつけてもらってたっけ。


 メムメムが認識阻害の魔術をかけてくれた頃からは、ボディーガードも俺たちのことを見失ってしまうので、見かけなくなったけど。

 今はGPSで居場所だけ把握して、影から見守ってくれているらしい。


「じゃあ、揃ったことだし行こうか」


 俺たちはぞろぞろと家に向かって出発する。

 その前に近くにあるスーパーでお酒やつまみ、ご飯や食材を買って帰宅する。


「うわぁ……こんな大きな家に住んでるんだ。羨ましいなぁ」


「これだけ大きいと掃除とか手入れとか大変そうでござるな」


「うわ!? 庭にプールがついてるよ!!」


「拓殿、こっちには露天風呂がありますぞ!!」


 豪邸を目にした島田夫妻は、期待通りの反応をしてくれた。

 だが俺はその度に恐縮するばかり。これが自分で買った家ならば自慢の一つや二つもしたんだけど、合馬大臣からただで与えられたものだからなぁ。


 ひとしきり家の中を案内した後、リビングで祝勝会の準備をする。

 俺と島田さんは買ってきたものを並べて、三人の女性陣は簡単な料理を作っていた。因みにメムメムはソファーの上でぐでってしてる。


「うわぁ、紗季さんも料理上手なんですね!」


「私っていったい……」


「ふっふっふ、この程度おちゃのこさいさいでござるよ。それより拙者、美女に囲まれて興奮してきたであります。あっ鼻血出そう……」


 なんだかあっちの方は楽しそうだなぁとか思っていると、島田さんが苦笑いを浮かべながら謝ってくる。


「あはは……紗季がうるさくてごめんね」


「いえ、全然そんなことないですよ。楽しい人じゃないですか。ちょっと不思議なところはありますけど」


 俺としては、島田さんの奥さんは彼に似て落ち着いている人だと思っていた。

 それが会ってみればすっごいキャラが強い人だったので驚いてしまったのだ。見た目だけ見ればお似合いなのだが、性格的には合うのかなと不思議に思ってしまう。


 だが俺の疑問は、これまでも散々思われたらしい。


「よく言われるよ。お前の奥さん変人だなって。確かにちょっと変わってるけど、とても優しい人なんだ。ダンジョン病で僕が苦しんで冒険者を辞めようかなって思ってた時も、僕が本当に冒険者を辞めたいと思っているならすぐに辞めていいけど、そうでないなら辞めなくていいって、色々なやり方があるって言ってくれたんだ。その言葉がきっかけで、僕は剣士から回復術師になったんだよ」


「へぇ、そんなことがあったんですか。でもそう言ってくれると心強いですよね」


「うん。僕よりも年が下なんだけどさ、僕なんかよりずっと頼もしいんだ。なんかそういうところに惹かれちゃうんだよねぇ」


 分かる……すごく分かる。

 俺も灯里や楓さんより年上だけど、彼女たちの方がしっかりしているといつも思ってるしな。そういうところに惹かれるのは物凄く共感できる。


 それから島田さんの惚気話が続いていたところで、料理が完成する。

 全員飲み物を持って、祝杯を挙げた。

 乾杯の音頭は今日のMVPである島田さんだ。


「で、では、二十階層踏破と銀級昇格を祝して、乾杯!」


「「かんぱ~い!!」」


 俺たちはグラスを合わせ、ぐびぐびと飲み物を喉に通す。

 か~~~~、嬉しい時ほどお酒はめちゃくちゃ美味しいよな!!

 ビールの素晴らしさを実感していると、灯里が紗季さんに尋ねていた。


「ねえ紗季さんって同人誌を描いてるって言ってたけど、どんなの描いてるの?」


「色々描いておりますが、多いのはBL本ですな。詳しく言うとアニメやマンガの男キャラ同士によるくんずほぐれつなエロ本ですぞ」


 普通にぶっちゃけたな!


「へ~、そんなのあるんだ! 見てみたい!」


「ふっふっふ、灯里殿……一度深淵を覗いたら二度と普通には戻ってこられないが、その覚悟はあるでござるか?」


「え?」


 やめるんだ灯里! 本当に戻ってこれなくなるぞ!


「そういえばサキは漫画に詳しいんだよね。君のおすすめを教えてくれよ」


「おすすめと言われても難しいでござるな。メムメム氏はどんなジャンルが好きなのでござるか? 恋愛系、バトル系、日常系、スポーツ系、お仕事系、とジャンルだけでも沢山ありますが」


「う~んそうだねぇ、バトルものも結構読んだし、箸休めで恋愛系とか日常系とか読んでみたいなぁ」


「それなら君〇届けや花より〇子がいいのではないか。日常系でしたらドラ〇もんやクレヨンし〇ちゃんをおすすめしますぞ。あれは昔の漫画ですが、読んでみると意外と奥が深いでござる」


「ありがとう、それもチェックしておこうかな」


「あとできれば漫画だけではなくアニメも良いですぞ。アニメは日本の――」


 紗季さんは楽しそうに漫画やアニメの素晴らしさを伝え、メムメムも興味深々に聞いている。

 彼女は色々多くの物語に触れてきたんだということが、凄く伝わってきた。


 それにしてもドラ〇もんか……メムメムだったら四次元ポ〇ットとか作れたりするのだろうか。


 そんな風なことを思いながら、俺はみんなとの楽しい時間を過ごしていったのだった。

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