第87話 世界の動向

 


 フランス・パリ


「早急に日本政府と連絡を取れ」


「いかがなさるおつもりですか」


「どの国よりも早くメムメムと接触するのだ。遅れを取るわけにはいかんからな」



 イギリス・ロンドン


「どこの国もメムメムと接触しようとするだろうな。だが、我々は慎重にいこう。彼女を怒らせたら最後、国が亡びるかもしれないからね」


「どう接触致しましょうか」


「今は無理する時ではない。日本政府に、メムメム宛てに物を送っておけばいいだろう。友好的にね」


「そんな悠長にしてて大丈夫ですかね?」


「君は仕事はできるようだが、淑女レディーに対するアプローチをわかっていないね。強引にデートに誘うだけが男らしさではないのだよ。我々は紳士ジェントルマンでいこうじゃないか」



 サウジアラビア・リヤド


「彼女と是非会ってみたい! すぐに日本に発とうじゃないか!」


「いやいや、それは無理ですって……自分の立場を考えて下さいよ」


「無理だと!? ならばこちらに招待しようではないか! 最高級のおもてなしをすればきっとこの地に居着いてくれるよね!!」


「無理だと思いますけど……とりあえずやってみますよ」



 ロシア・モスクワ


「テロを起こした国はどこか判明したか」


「はっ……間諜によると、中国の可能性が高いです」


「あの国は何でも手が早い。愚かとしか言えんな」


「同感です」


「君は奴を殺せるか?」


「わかりません。魔術という力がどれほどのものか次第でしょう。毒は効くのか、爆撃に耐える結界のようなものを常時発動しているのか。そうであるならば、人類に打つ手はありません」


「なら殺すのは無理か?」


「人質を取った時にどう対応するかによります。人質が効くなら、殺せる可能性はあります」


「ふっ、君はまだ相手を見る力が足りていないようだな」


「と、いいますと」


「ワタシの見立てでは、奴は人質が効くような相手ではない。平気で見捨て、我々を排除してくるだろう。まあ、人質すら通用しないかもしれんがな。なんせ人為的に竜巻を起こせるんだ、何ができてもおかしくはない」


「我が国はどう対応するのでしょうか」


「そんなことは知らん。上の考えてることは上にしかわからない。ワタシたちは上が言ったことにdah《はい》と答えればいいのだ」


「ですね」


「ただ、早まった考えは抱かないでほしいものだな。ワタシはバケモノと戦いたくはない」



 中国・北京


「捕獲された者はどうなった?」


「全員自害しました」


「最低限のことはしたか。全く使えん奴等だよ。高い金を払ったというのに」


「次はどこの組織を送りましょう」


「待て……今いい案を思いついた。奴は襲ってきた組織を滅ぼすと言っていたな。なら、他の国の者にやってもらおうではないか。それなら我等に被害は出ない。それどころか邪魔な国を排除できる」


「足がつかないように手配しなければなりませんね」


「十以上は仲介しろ。決して我々の差し金とバレないようにな」


「承知しました」


「なんとしてでも無力化して手に入れるんだ。奴はどんな核よりも強力な武器になる」



 アメリカ・ワシントン


「かの者に対して我等はどう対応するのでしょうか」


「我が国はジャパンと友好関係を築いている。他の国のように焦らずとも、いずれ会わせてくれるだろう。勿論、それまで待ってやることはないがな」


「接触を試みるのですか?」


「直接本人にはマズいな。あの手の性格は一度機嫌を損ねてしまったら関係を回復させるのは果てしなく遠くなるだろう。まずはシロー氏の経歴を全て洗い出せ。それとシロー氏と深い関係がある者たちもだ。そこから仕掛けてみよう」


「怪しまれませんかね」


「スパイのプロに任せるんだ。彼らはターゲットの心を開かせるのが誰よりも得意だからな。日本ではこういうコトワザがあるらしい。“将を射んとする者はまず馬を射よ”とね。本命の前に、まずは周りをこちらに取り込ませようではないか」


「他の国もそういう手段を取るのでは?」


「だろうな。だが外交以外での接触を図るとしたらその手段を取るしかないだろう。どこかのバカな国のようにMs.メムメムを強行的に拉致しようとしてもどうせ失敗する。彼女がどんな魔術を使えるのかわからんのだからな」


「ですね」


「どこかの国がもう一度仕掛けてくれば助かるな。そいつらを我等が変わりに始末すれば、恩を感じてくれるかもしれん」


「それならマッチポンプをしてみては?」


「それはやめておこう。失敗した時のリスクの方が大きい。それに、そんなことをせずともどこかの国がやってくれるさ」



 日本・東京


「大臣はメムメム氏をどうなさるお考えですか」


「好きにやらせておけばいいさ。こちらがあーだこーだ命令しても従う奴ではないしな」


「好きにって……そんな悠長なことを言っていてよろしいのでしょうか。各国は必ずメムメム氏と接触を図ろうとしてきますよ。条件次第では、この国を捨て他の国に引き抜かれてしまうのではないかと」


「接触はしてくるだろうな。それもメムメム本人ではなく、許斐君や周りから懐柔してくるだろう。だが安心しろ、メムメムが他国に渡ることはない。奴とはすでに個人的に取引をしている」


「いつの間に……流石大臣です。因みに、どんな取引なのでしょうか」


「ああ……上等な住まいを用意してやるかわりに、ほんの少し政治に関わって欲しいとお願いしただけだ。許斐君たちには政治の表に出るのは今回だけと言ってしまったが、日本政府としてはそうはいかんからな。どうしても、各国のお偉いさん方と会ってもらう機会が出てくる。しぶしぶながらも理解してくれたよ」


「気になることがあるのですが、大臣はメムメム氏のことを知っておられるのでしょうか」


「柿崎はどうしてそう思う?」


「……大臣の手際の良さと、大臣の口ぶりと、事がすんなり進んでいるのが少し違和感を感じました」


「いい目をしている。やはり君を部下につけてよかった」


「ありがとうございます」


「なに、私と彼女は出会ってすぐ意気投合しただけだ。遥か昔に剣を交えた宿敵と再会したような気分を、お互いに感じ取ったのさ」


「そう……でございますか」


「柿崎、これから忙しくなるぞ。まずは政府の口うるさい老害共を黙らせる。それから各国への対応。許斐君たちのカバー。そしてこれから起こり得る災害への準備」


「災害とは……なんでございましょうか?」


「感じないか? ダンジョンが――ダンジョンを召喚した奴等の考えが」


「いえ……何も」


「なら心構えをしておけ。この先大きく動き出すぞ――ダンジョンがな」

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