第85話 相談
激動の日曜日を終え、月曜日の朝。
俺がまず最初にしたことは、会社に休みの連絡を入れることだった。
「すみません、今日会社に行けないので、休ませてもらいます」
「分かった。許斐君の事情は把握しているよ。全く、次から次へと大変だな」
「自分も……何がなんだかよく分かってないんですけど、会社に行けるようになったら連絡します」
「了解だ。無理はしちゃいかんぞ、昨日の事故がテロなのかどうかは私には分からんが、君の命だって危険に晒されているのだからな」
「はい、ありがとうございます。」
会社の上司である倉島さんに会社を休むとの報告を終える。
体調が悪いわけではない。俺が今、政府から外出の自由を許されていないからだ。
ダンジョン省の人に確認を取ったところ、この国会議事堂からまだ出てはいけないそうだ。
コンビニにだって行けない。というか、指示があるまでこの部屋から出てはいけないと言われている。
軽い軟禁状態の今では、会社に出勤することなんてできないだろう。
(はぁ……いつまで拘束されるのかな)
心の中でため息を吐く。
まさかずっとこのままではないだろうけど、早く解放して欲しい気持ちはあった。
まあその前に、果たして俺は元の普通の生活に戻れるかどうかも怪しいけど。
これだけ大事になってしまい、少なからず関係がある俺が、このまま素直に政府から解放されるかどうか……。
まさか投獄されたりとかはしないよな?
おっかない妄想をして不安に抱いている俺に、メムメムが念話を送ってくる。
『誰と話していたんだい? アカリやカエデか?』
『俺が働いている場所の上司に、今日は休みますって報告したんだ』
『ほう! 仕事か、興味があるな。シローはどんな仕事をしているんだい?』
そう質問されたので、俺は自分のしている仕事内容を少しだけ伝える。
その他にはどんな仕事があるんだと興味津々に聞いてくるので、俺は警察とか消防とか知っている限りの職業を話す。
そんな風にこちらの世界の話をしていると、コンコンとドアがノックされた。
「許斐様、メムメム様、合馬大臣が話があるとのことです。ついて来てください」
「は、はい」
合馬大臣との話か。あの後、何か進展はあったんだろうか。
不安を抱きながら、俺とメムメムは部下の人について行ったのだった。
◇◆◇
「おはよう二人共、昨日はよく眠れたかな?」
「は、はい」
『日本語で話すなよ分からないだろ』
『すまんすまん、念話が慣れなくてな。そこにかけてくれたまえ』
『はい』
合馬大臣に促され、俺とメムメムは高級そうなソファーに並んで座る。
対面に、合馬大臣がどっしりと座り込んだ。
『まずは昨日襲ってきた連中の話をしよう。奴等がどこの国からの差し金か、残念ながら知ることはできなかった。尋問しようとした瞬間、口内に仕込んでいた毒薬で自決してしまったからだ』
「じっ――!?」
大臣の口から出た言葉に息を呑んだ。
自決って……死んだってことだよな。それも、あの場にいた全員死んだってことなのか。
『へー、口を割らずに自ら死を選ぶなんて、優秀な駒なんだね』
『羨ましい限りだな。その次に、お前のことを日本政府から正式に世界に公表した。メムメムがエルフということも、異世界という存在もあると本人は話しているとな。まあ、それを信じるかどうかは人それぞれだがね』
『えっ……言っちゃったんですか?』
言ってしまって良かったのだろうか……てっきり隠し通すと思っていたんだけど。
『YouTubeのダンジョンライブでこいつが既にペチャクチャ喋ってしまったからな。それに、テロの際に魔術が使われた動画も出回っている。下手に隠すよりも、正直に伝えた方が国民の心象もいいだろう』
『でも、それじゃあ世界中で大騒ぎになりませんか?』
『少しは騒がれるだろうが、ダンジョンが現れた時ほどではないだろう。被害も出ていないしね。それに、ダンジョン発生で各国は異世界があるだろうと踏んでいる。騒ぐのは国民ぐらいだろう。まあ、接触を図ってくるとは思うがね』
そっか……そもそもダンジョンが出てきた時点でいろんな事を考えるよな。
俺が心配するまでもなかったか。
『で、ボクの今後の処遇はどうするつもりだい? まさかずっとここに幽閉するわけじゃあないよね』
『それについてなんだが、メムメムは許斐君に保護してもらうつもりでいる』
『ええ!? お、俺ですか!?』
いきなり言われて驚愕してしまう。
まさかメムメムの面倒を俺が見るなんて思いもよらなかった。てっきり政府が保護すると思っていたからだ。
でも、何故合馬大臣はそういう結論に至ったのだろうか?
『メムメムは君と一緒にいると言うと思ったからだ。そうだろ?』
『魔王にボクの考えを読まれるのは癪だけど、まぁその通りだよ。ボクはシローの世話になろうと思ってる』
メムメムも最初から俺と一緒にいることを望んでいたのか。
まあダンジョンの中で、メムメムから保護して欲しいと頼まれ了承したから、断ろうとは思ってないけど。
『それに、君たちが一番安全なのはメムメムの側だろう。一応聞いておくが、この世界でも向こうと実力は変わらないんだろう?』
『そうだね。ダンジョン以外では変わらないよ。何が襲ってきても対処できる。もうすでにシローやアカリたちには防御魔術をかけているしね』
『抜かりないな、流石私を倒した魔術師なだけはある。ということで許斐君、メムメムを任せてもいいだろうか』
『いいんですけど……俺はその後どうすればいいんでしょうか? 普通の生活に戻れる気がしないんですけど』
メムメムを迎え入れることはできる。
俺のアパートでも、頑張れば三人で暮らすことはできるだろう。ただその後、色々面倒ごとが起こりそうな気がするのだ。
昨日みたいにテロ集団が襲撃してくるかもしれないし、マスコミが殺到してくるかもしれない。俺自身も嫌だけど、会社とか周りに迷惑をかけたくなかった。
そんな心配事を相談すると、大臣はこう言ってくる。
『勿論私たちは全面的にバックアップするつもりだ。望む住まいを用意するし、仕事に支障がないように手配する。もし会社に居づらくなったらこちらで仕事を用意しよう。当分は君たちの身辺を警護するし、マスコミも対処する。まぁ、いざとなったらメムメムがなんとかするだろうしな』
『人任せはやめてくれよ』
『お前のせいで面倒ごとになっているんだ。それくらい協力してくれ』
『しょうがないなぁ、これは貸しだぞ』
その後も、俺たちは今後の話を詰めていく。
その結果、メムメムは俺が保護することになった。
今まで通りの生活を送ってもよいが、何かあれば大臣に相談する。
ダンジョンにもこれまで通り入っていいみたいだ。
政府からも俺やメムメムに協力して欲しいことが起きる可能性もあるから、その時は協力して欲しいとのこと。
『早速二人に頼みがある』
『なんだよ急に、エルフ使いが荒い魔王だな』
文句を垂れるメムメムに、合馬大臣は笑顔でこう答えたのだ。
『今日の夜に開かれる世界に向けた記者会見に、二人で出て欲しいんだ』
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