第82話 テロ
俺とメムメムは、大人しくダンジョン省の柿崎と多くの自衛隊のあとについていく。
広場に戻ると、いつも多くの冒険者で賑わっているはずなのに何故か一人もいなかった。
(何で冒険者が誰もいないんだ?)
見たことが無い景色に驚愕する。
だが冒険者がいないのは広場だけではなく、エントランスに出ても冒険者どころか一般人でさえ見る影がなかった。
もしかすると、ギルド一帯を封鎖しているのだろうか。
その予想は正しかったみたいで、ギルドの外に出ると警察やパトカー、黒スーツを身に纏ったSPらしき集団や黒塗りの車で溢れかえっている。
楓さんが大事になるだろうと言っていたけど、まさかここまでの規模に膨らんでいることは想像もできなかった。
『なんだか物々しい雰囲気だね。ねえシロー、彼等は敵じゃないんだよね』
メムメムが念話を使って問うてきたので、俺は説明する。
『うん……あの人たちは警察っていう人々を守る組織なんだ。だから味方のはずだよ』
『ふ~ん、王国の騎士団や軍隊みたいなものか。それにしては、全員弱そうに見えるけどね』
まぁ、魔力や魔術を扱う異世界に比べたらこちらの世界の人間は頼りないだろう。
武器は拳銃くらいだし、それすら異世界に通用するか分からないし。
「これに乗りたまえ」
「分かりました」
柿崎に指示され、俺とメムメムは黒塗りの車の後部座席に座り、柿崎は助手席に座った。
なんだか、逮捕された気分になってしまうな。
逮捕なんてされてことなかったけど。
そんなことを思っていると、車が発進する。
前に後ろにと、パトカーがこの車を守るように走行していた。
ふと気になり、俺は柿崎に質問する。
「あの、どこに行くんでしょうか?」
「国会議事堂にあるダンジョン省に連れていく。そこで彼女に色々と話してもらう。君にも協力してもらうよ」
「は、はい」
『なんだって?』
『え~と、日本で偉い人たちがいる場所にいって、そこでメムメムに色々と聞きたいことがあるんだって』
『なるほど、ようは王国に案内されているわけか』
異世界風に例えるとそんな感じだろう。
国会議事堂っていうことはここからそう遠くないし、一時間もしないうちに到着するな。
っていうか俺、国会議事堂に行くのか……。
今さらだけど、なんか急に緊張してきたな。それに、日本の偉い人と話すんだろ?
はたして俺に務まるのだろうか……楓さんに来てもらった方が良かったかな……。
そんな風に不安を感じている時だった。
「――っ!?」
突然、強烈に嫌な予感を抱いた俺は、横にいるメムメムの頭と体を抱えて体勢を低くする。
刹那、バシュンという破裂音と共に、走行中の車が激しく揺れてしまう。
すると、車は前方と後方のパトカーに激突してしまった。
「ぐ……何があった!?」
「分かりません……おそらくタイヤがパンクしてしまったと思われます」
「この車だけでなく、前後のパトカーもか!? くそ、このタイミングで仕掛けてきたか!!」
周りを見て状況を確認した柿崎が、苛立たし気に吐き捨てる。
俺も窓から外の状況を見ると、周りを取り囲んでいたパトカーが全て衝突し停止していた。
なんだこれ……なにがどうなんっているんだ?
事故? でも、あれほどゆっくり走っていたのに事故なんて起きるのか?
困惑しながらも、俺は腕に抱えているメムメムに声をかけた。
『メムメム、大丈夫か?』
『ああ、平気さ。シローが守ってくれたお蔭だよ。よく“こうなることがわかったね”』
『わかったっていうより、直感かな。急に危ないって気がしたんだ』
俺自身も上手く説明できない。
ただ何故か急に、危険を察知することができたのだ。
メムメムは思案気な表情を浮かべ、念話で自分の考えを伝えてくる。
『ボクが思うに、これは単なる事故ではなく敵対者からの攻撃だね』
『嘘だろ? なんで俺たちが襲われるんだ?』
『狙いは完全にボクだろう。やれやれ、聞いていた話と違うじゃないか。日本は争いのない平和な国と聞いていたが、どうやらそうでもないみたいだ』
いやいや、争いのない平和な国だよ。
少なくとも俺がこれまで生きてきた中で、こんな危ない目に遭ったことなんてなかったし。
ただ、メムメムの言うとおりこれが何者かの敵対者による犯行だとしたら。
メムメムの身が危ない。
彼女を守らないと。
せっかく俺たちを信じてついて来てくれたのに、死なれてもらっては困る。
そう決意していると、急に周りの景色が白く染まる。
これは……煙だろうか?
外で何が起きているのか把握するためにドアを開けようとするが、その腕をメムメムに止められてしまう。
『開けない方がいい。この煙には催眠薬が含まれている』
『催眠薬!?』
彼女の警告に驚愕していると、ダンッという衝撃音が鳴り響き、俺がいるドアが外からこじ開けられた。
映画で見るような特殊装備を着込んでいる兵士が、その手に持つ銃を向けてくる。
「get off!」
「なっ――!?」
「グオオッ!?」
銃を向け叫んでくる兵士が、くの字で吹っ飛んだ。
なにが起きているのか分からず困惑していると、頭の中にメムメムの声が聞こえてくる。
『やれやれ、あまりこの国の争いに介入したくなかったけど、こうなったら仕方ない。外に出るよシロー。ボクが君を守るから、君は少しだけ息を止めておいてくれ』
『わ、分かった……』
慌てふためいている俺とは違って冷静なメムメムの言う通りにし、俺たちは車の外に出る。
周りは白い煙に覆われていて、状況を把握することができない。
メムメムはパチンと指を鳴らす。
すると突然強い風が吹き荒れ、白い煙が渦を巻いて空に吹き上がっていった。
(凄い……これも魔術の力なのか!?)
人為的な突風の発生に興味を抱いている間に、煙が晴れて視界がクリアになる。
周りの状況は先ほどと同様に車がごちゃごちゃな事故現場みたいなっているままだが、警官や黒スーツを着ている人たちが地面に倒れている。
さらに近くから発砲音が聞こえることから、誰かが戦っているようだった。
『数は少ないようだ。どうやらボクたちを襲った連中は少数精鋭みたいだね。これなら指を数える間に無力化できるよ。どれ、誰に牙を向けたのか思い知らせてやろうじゃないか』
不敵に笑うメムメムが、不意に右手を掲げる。
そよ風が吹いた。
刹那、五月蠅く鳴り響いていた発砲音が止み、静まり返る。
まさか、それだけで敵の勢力を全て無効化したっていうのか?
異世界の魔術凄すぎだろ……。
『あらかた片付けたよ。ここから西の方角で遠くの建物にいる奴も倒しておいた。もう安全だよ』
『倒したって、殺しちゃったのか?』
『まさか……そんな短絡的なことはしないよ。ボクとしては虫に集られた程度のことだしね』
それを聞いて安心する。
メムメムが誰かを殺してしまったら、のちのち問題になると思ったからだ。まぁ、襲ってきた向こうとしては殺されても仕方ないとは思うんだけど。
でも、何でメムメムは遠くにいる敵を探し当てたり、安全だと断言できるのだろうか。
理由を聞いてみたら、どうやら探知魔術で敵意のある存在を把握できるらしい。
魔術ってそんなことも出来るのか……。
「君たち、大丈夫か!?」
「はい、大丈夫です」
怪我をしている柿崎さんにそう答える。
彼は「そうか……」と安堵の息を入って、
「無事でよかった……すまないな、巻き込んでしまって。今応援を呼んでいる。ここでは車が動けないから、ここから移動する。ついてきてくれ」
「分かりました」
そうして、俺とメムメムは柿崎さんと他数名の警官に警護されながら歩き出したのだった。
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