第54話 救出

 


 ここは……どこだ。


 俺はどうなったんだ?


『やっと会えたね』


 えっ?


『君が来るのをずっと待っていたよ』


 俺を待っていた?


『流石だね、あのオーガに勝っちゃうんだから。でも君ならきっとやってくれると思ってたよ。昔の君と比べたら、ちょっと弱すぎる気もするけどね』


 なんなんだ、さっきから何を言っているんだ。


『まだその時ではないけど、いつの日か会えるのを』


 君は一体……誰なんだ。


『ずっと待ってるよ』



 ◇◆◇



「――さん」


 何だよ五月蠅いな。人が気持ちよく寝ているんだから起こさないでくれよ。


「――さん!起きてよ!」


 耳元で大声が聞こえる。この声は……灯里の声だろうか。

 声に誘われて目を開けると、すぐ目の前に灯里の顔があった。目を細めて今にも泣きそうな顔をしている。彼女の頬に手を当てると、俺の手を握って微笑んだ。


「良かった、士郎さん……起きてくれて良かった」


「灯里……」


「気が付いて良かったです」


「全然起きないから死んじゃったのかと思ったよ」


「楓さん……島田さんも……」


 灯里の後ろで、楓さんと島田さんが俺を覗き込んでいた。

 オーガに攻撃されて気を失っていたけど、二人とも無事で良かったと安堵する。のそりと起き上がり、周りを見渡した。


「ここは……」


「どうやら本当の十層に転移したようです」


 問いかけると、楓さんがすぐに教えてくれる。

 言われてみればこの空間に見覚えがあった。壁面は木造で作られていて、地面は雑草になっている。天井は空いていて、太陽の光が差し込んでいた。ダンジョンライブで見た十層の部屋そのものだ。


 それから楓さんに、俺が起きるまでの事を説明して貰う。

 まず最初に気がついたのは島田さんだった。すぐに怪我をしている楓さんにハイヒールをかけ、それから灯里を起こし、最後に俺が起きたという事だった。


 今度は俺と灯里が、二人が倒れた後の事を説明する。

 とは言っても、二人がかりでなんとかオーガを倒したってだけだけど。だけどそう伝えると、楓さんと島田さんは凄く驚いた。


「よく倒せましたね……凄過ぎて言葉が出てこないです」


「俺達だけの力じゃない。島田さんは俺達を回復させてくれたし、楓さんが守ってくれたから勝ったんだ。みんなの勝利だよ」


「いやぁ、僕なんかヒーラーなのに早々に離脱してしまって申し訳ない気持ちで一杯なんだけど」


「そんなことないですよ島田さん」


 後頭部をかきながら申し訳なさそうにため息を吐く島田さんを灯里がフォローする。

 そうだ。あれは全員の力でもぎ取った勝利なんだ。そう伝えると島田さんは照れ臭そうに笑った。


「それにしても何だったんだろうな……」


「そうですね……こんな事は初めで驚いてしまいました。ですが、そもそもダンジョンという未知の世界があるので何が起きてもおかしくはありませんが……」


「ねえ皆、あれ見て!」


 突然灯里が指を向けるのでその方向に視線をやると、モンスターを倒した時に出るようなポリゴンが集まっていた。ポリゴンは収束すると、アイテムのような物がコロンコロンと落下する。気になって四人で近寄ると、二つのアイテムがドロップしていた。


「イヤリングと、腕輪?」


「鑑定しますね」


 ドロップしたアイテムはイヤリングセットに透明の腕輪だった。

 楓さんが【鑑定】スキルを持っているので鑑定して貰うと、イヤリングの名前は『癒しのイヤリング』で、効果はHP自動回復小が備わっているそうだ。それって、めちゃくちゃ性能が良いアイテムだよな。

 腕輪の名前は『ヒットブレスレット』で、効果は命中率とクリティカル率を上昇させるみたいだ。これもかなりのレアアイテムだろう。


「オーガを倒したから、今になってドロップしたのかな?」


 首を傾げて疑問気に呟く島田さんに、楓さんが「恐らくそうでしょう……」と答える。

 何はともあれ、二つのレアアイテムをゲットしたんだからラッキーでしかない。必死扱いてオーガを倒しただけに、何だか報われた気がした。


 思わぬレアアイテムゲットにホクホクしていると、目の前でまたポリゴンが溢れ集束した。

 今度は何が出てくるんだと楽しみにしていると、ポリゴンは人のシルエットに変化していく。


「えっ?」


 まさかの事態に面を喰らっていると、人が現れた。

 その人は女性で、腕を組んだまま寝ている。服装は冬物のコートを着ていていた。

 まさかこの人って……ダンジョンに囚われた被害者の一人か!?

 突如現れた女性にどうすればいいのか分からず困惑していると、不意に灯里が女性に抱き付いた。


「お母さん!!」


「おかあ……さん?」


「お母さん!お母さん、良かった!生きてて、本当に良かった!うわああああああああああああああああああああん!!」


 現れた女性は、灯里の母親だったのだ。

 母親の頭を抱き締めながら号泣している灯里。

 そんな彼女を眺めていると、俺も不意に涙が零れてくる。


(良かった……本当に良かった)


 この三年間、灯里がどれだけ頑張っただろう。どれだけ耐えてきただろう。どれだけ辛い思いをしていただろう。俺なんかには到底分からないほどの想いを抱えていた筈だ。


 灯里の頑張りが少しでも報われて、本当に良かったと心から思ったのだった。

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