東京ダンジョンタワー

モンチ02

プロローグ

 



「士郎さん後ろです!」


「大丈夫!」


 パーティーメンバーである星野灯里ほしのあかりが、慌てた様子で叫んでくる。安心させられるように、大きな声を出して応えた。

 彼女に言われる前から、【気配察知1】のスキルが背後に迫る敵を教えてくれていた。振り返ると、見た目が中型犬のモンスター、ウルフが牙を向けながら突撃してくる。


 左手に持っている丸い盾で受け止めると、右手に握っている剣でウルフの首を突き刺した。肉を断ち、骨を穿つ感触は未だに慣れない。気をしっかり持ってないと吐いてしまいそうだった。


 絶命したウルフの身体は、ポリゴンのようにパラパラと舞い散る。全てが生々しさに溢れるこの世界において、その現象だけはやけにゲーム染みていた。


「ゲゲゲッ!」


 小鬼の化物、ファンタジーでは必ずと言っていいほど出てくるゴブリンが、下卑た嗤い声を上げながら星野さんへ駆けだす。しかし、ゴブリンの進路を塞ぐ者が現れた。


「ここはいかせません!!」


「ゲゲ!?」


 白鉄の鎧を身に纏い、大きな白盾を携えた女性――五十嵐いがらしかえでさんが立ち塞がり、突進するゴブリンを真正面から受け止めた。


「キッツ! でも気持ちいい! 20点!!」


「楓さん、そのままお願い!!」


 体当たりされて何故か恍惚な表情を浮かべている五十嵐さんの後ろで、灯里が白い弓を構える。狙いを定め、引き絞った矢を放った。

 ヒュンッと、矢は風を切りつつゴブリンの頭部に突き刺さる。俺が倒したウルフ同様、ポリゴンとなって消え去った。


 二人がゴブリンと戦っている間、俺は二体のホーンラビットと戦っていた。見た目は普通の兎だけど、頭には大きな角が生えている。その角が飾り物でない事は、一度殺された俺が一番よく分かっていた。


「「キュウ!!」」


「あっぶね!」


 可愛らしい鳴き声を上げながら、二体のホーンラビットが突撃してくる。【回避1】のお蔭で、間一髪躱すことが出来た。それだけではなく、避ける際に角兎の身体を切り裂いた。素人の俺がこんな芸当を成せるのも【剣術1】スキルのお蔭だ。


 一体が死に、生き残ったもう一体のホーンラビットが再び突っ込んでくる。左手に持っている盾で受け止めると、貫通されてしまう恐れがある。それだけあの角には破壊力がある。だから俺はタイミングを合わせて回避すると、右手を掲げた。


「ファイア!」


 呪文を唱えると、薄く光る右手から炎が放出された。炎はホーンラビットに着弾すると、轟々と燃え盛る。炎を振り払おうと藻掻くが、力尽きたホーンラビットはポリゴンとなって消滅した。


「ふぅ……なんとか無傷で勝ったか」


「お疲れ、士郎さん」


「お疲れ様です」


「二人ともお疲れ」


 安堵の息を吐いていると、灯里と五十嵐さんの二人が声をかけてくる。という事は、出現したモンスターはあらかた倒しきったということだろう。見たところ二人共外傷はないみたいだ。


「ステータス見たらレベル上がってたんですけど、士郎さんはどうでしたか?」


 灯里にそう言われて、そういえば全然ステータスを確認してなかった事に気付く。久々に、自分のステータスを見てみるか。


「ステータスオープン」


 専用の言葉を告げると、目の前にウインドウが現れる。そこに書いてある内容に目を通していった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男 

 レベル:13

 職業:魔法剣士 

 SP:40

 HP:270/300 MP:180/240

 攻撃力:290

 耐久力:250

 敏 捷:245

 知 力:230

 精神力:285

 幸 運:230


 スキル:【体力増加1】【物理耐性2】【炎魔術3】【剣術3】【回避1】【気配探知1】【収納1】


 称号【キングススレイヤー】

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 使用可能なSP 40


 取得可能スキル 消費SP

【筋力増加1】 10

【体力増加2】 20

【気配探知2】 20

【回避2】   20

【収納】    100

【魔法剣1】  10

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 おお、いつの間にかレベル12から13に上がっているじゃないか。嬉しい知らせに、つい頬が上がってしまう。その様子がバレたのか、灯里がニヤニヤしながら聞いてきた。


「さてはレベル上がってたな~?」


「1だけだけどね。五十嵐さんはどうでした?」


「残念ながら、私は上がっていませんでした」


 淡々と口にする五十嵐さん。彼女は俺達よりもレベルが高いから、上がりにくくなっているので仕方ないだろう。


「今日はどうする?もうそろそろで六時ぐらいだけど」


「あまり無理もよくないし、退散しようか」


 そう告げると、灯里は顔を明るくして、


「じゃあ、この後三人でご飯食べに行こうよ」


「いいですね!これだけ運動したら、絶対ビールも美味しいはずです!」


「あはは……あまり羽目を外し過ぎないようにしてくださいよ」


 貴女が酔いつぶれた時は凄く大変だったんだから。そう付け足すと、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。


「あの時は誠に申し訳ございませんでした。今日は抑えて飲みますので心配ご無用です」


「ほらほら、喋ってないで早く帰ろうよ!」


 先に行ってしまった灯里が、手を上げて呼んでくる。俺と五十嵐さんは顔を見合わせて、彼女の下へ歩いた。


 まるでファンタジーのような世界で、剣や魔法でモンスターを倒す。

 そんな漫画やゲームのようなことを実際にやっているなんて、一か月前は思いもしなかった。

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