未知青
午時葵
未知青
「ねえ、いつからが夏だと思う?」
「それは人によるんじゃないか?
俺は7月入ったあたりだと思うけどな」
「ふーん。」
「急にどうしたんだよ、そんなに連日の雨が嫌なのか」
「うーんそんなとこ、私的には夏って8月からな気もするけど」
「流石に遅すぎやしないか?」
「あははっ、それ私も思った。」
窓枠の外のしぼんだ白い朝顔を眺めながら、笑ってるのに、困ったような顔をして君は言った。
「お前は夏休み誰かと遊ぶ予定あんの?」
「殆ど決めてないけど。なぁに、私とどっか行きたいの?」
「別にそういうわけで聴いたわけじゃねーし」
「つれないなぁ。でもせっかくの夏休みだし、どっか行こう。」
ピピピピピピピッ。
う、ん―――。
まだ5時じゃないか…なんでこんな時間に目覚まし鳴って…。
そうだ、夏休み始まってばっかってのに、6時集合って昨日の深夜に電話かかってきたからだ。
昼夜逆転生活を始めた俺にとっては十分すぎるほど寝不足だ、何がなんでも早すぎやしないか?遠足前のガキでもあるまいし。
そういや自転車も持ってこいとか言ってたな。鍵どこやったっけ。
色々文句をこぼしながらも俺はいつものナップサックを背負って家を出る。
チャリ…久しく乗ってないけどこんな寝起きで走れるかね…。なんか不安になってきた。
ガチャ。
鍵をかけてゆっくりと走り出す。最初こそフラついていたものの、(まあまあ)好調だった。途中でドブに落ちそうになったけど。
目的地はあいつの家。行ったことは無かったけど、うちから10分も下れば着く位置にあるらしい。
早朝の涼しい風を楽しんでいると、真っ白なワンピースに見をつつんでいる奴むすーっと立ってるのが見えてきた。
「遅刻!5分も!!」
「いや、これでも頑張った方なんだぞ?」
「そんなの知らないし、遅刻は遅刻!」
怒りながらどんどん詰め寄ってくるが、
いつもの制服でないと随分小柄に見える。
「大体なぁ、なんでこんな集合が早いんだ。
」
「どうせ今日も一日中だらだらするつもりだったんでしょ。」
「…。」
「ほら、突っ立ってないで
あとバック邪魔だから前カゴに入れて」
「まさか…俺の後ろに乗るつもりか…?」
「そっ。」
「二人乗りなんてした事無いし、ここまで来るだけでもまあまあ大変だったんだぞ??」
「大丈夫、私軽いし。」
「そういう問題じゃないって…」
「何とかなるでしょ、何事も経験だって」
「まじかよ…」
ぐだぐだ言っていたが走り出しは非常に好調で本人の言った通り本当に軽かった。
一人で乗っている時とほぼ同じ感覚で、本当に乗っているのか心配になってくる程。
でも、俺の腰に回されている華奢で白い腕と背中から伝わって来る熱が確かにこいつがいる事を感じさせてくれた。
「んで、どこに向かうんだ。」
「とりあえず海!」
「へいへい。」
空が赤らんでいくのを追いかけるように自転車は加速していった。
太陽はどんどん昇って、影との境界を一層深くしてく。眼前に見えた空は快晴で、海との境界は殆ど無いように見えた。
「んーっ、流石に結構乗ってると疲れるなぁー。」
大きな背伸びをしても俺から見れば小さい君は言った。
「自転車漕いでる俺のほうが疲れるの分かってる?」
「分ーかってるって。」
「どうなんだか。」
「ねえ、せっかく海来たんだから入ろうよ。」
俺の手を引く、
全てを嘲笑うような笑顔で。
「冷たっ、でも気持ちいいくらいの冷たさ。」
「そうだな。」
全てが真っ青な世界では君は小さく、でもはっきりと俺の目に映った。
そこからは記憶に残らないくらいはくだらない話を聞いたり、何故か近くのコンビニで馬鹿高いアイスを奢らされたり。
ただただ夏休みだった。
「あと言いたい事があるんだけど。」
「何?」
「私ね、君が好きなんだ。」
「え、」
「あれ、君なら喜んで"俺も"って言ってくれると思ったんだけど。」
「その自信は何処からくるんだ?」
「君から…?」
「何なんだよそれ」
「次会うときには"俺も"って言ってね」
「さて、日も沈みそうだし帰ろうか」
「分かってはいるけど帰りも俺が漕ぐんだよな…」
「もちろん。」
「…早く乗れ、置いてくぞ」
「それが好意を持ってる女の子に対する態度ですかー?」
「誰も言ってないんだよ、ばーか」
「全く、素直じゃないんだから」
そう言って君は肩を揺らすほど笑っていた。
「いつも振り回してばっかでごめんね。ありがと。じゃ。」
「じゃ、また。」
新学期、教室に君の姿は無かった。
未知青 午時葵 @cistus
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