おかえり

なゆうき

「はぁ、今日も疲れたな……」


 会社付近にある大きなモニュメント、そこが私達のいつもの待ち合わせ場所だった。


 好きでも嫌いでもない仕事を日々淡々とこなしている。たいした仕事もしていないけど歳だけはとっていき、社内ではそれなりに頼りにされている。


 周りはどんどん結婚を意識した話で盛り上がっているが、私には浮いた話は少なくそこまでの興味もなかった。


 ただ繰り返しの日々に虚しさや悲しさは感じていて一人鬱々としてしまう日もある。


 そんな日々を癒してくれたのはこのお迎えだった。


 彼は会社が終わった私をいつも迎えに来てくれる。とても優しい彼……。


 帰り道私のくだらない愚痴に嫌な顔せず耳を傾けて聞いてくれる優しい彼……。


 道路を歩く時に決まって車道側を歩いてくれる優しい彼……。


 スーパーで買い物をして、ついつい買いすぎて重くなった荷物を黙って持ってくれる優しい彼……。


 彼といると心が癒される。彼といると退屈な毎日を忘れさせてくれる。


 そのお迎えは私にとってとても大切な、かけがえのない時間だった……。


 

 今日もいつもの様に待ち合わせ場所へお迎えに来てくれて私を家まで送ってくれる。


 そして、家に着くと玄関の前でとびきりの笑顔を私に向けながらいつものセリフを言う。




「いつもありがとうございます。本日の料金は8,500円になります」



 私はその癒しに満足し、お金を支払った。決して高いとは思わない……。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかえり なゆうき @mthkt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ