付き合っていない幼馴染同士でお互いに恋人が居ない理由を考えた

月之影心

付き合っていない幼馴染同士でお互いに恋人が居ない理由を考えた

「彼女作らないの?」


 ベッドにもたれて本を読んでいる俺、国見くにみ勝利かつとしに突然質問して来たのは、俺の幼馴染である中津なかつ瀬奈せな

 長い睫毛に二重のぱっちりした目と小振りだがすっと通った鼻筋に口角の上がったやや薄目の唇をした可愛らしい子だ。

 今日は肩に掛かる艶々の黒髪を真っ直ぐ下ろし、大きく膨らんだ胸元に何かの絵が描かれた白いTシャツに、太腿の半分くらい露出させている水色のミニスカートという出で立ち。

 普通ならこんなに可愛らしくスタイルも良い子が自分の部屋に居たらただでは済まさないところだが、俺と瀬奈は小さい頃からこうして過ごすのが当たり前になっていたので、世間一般の20代前半の男子に沸き上がるような情欲など起こる事はなかった……








 ……なんて事があるわけもなく、いくら付き合いの長い幼馴染だろうとこんなに可愛らしくてこんなにスタイルのいい子が目の前に居て、生物の三大欲求の一つを抑えられるとしたらもうそいつは全ての煩悩を消し去って人類を超越した存在なんじゃないかな。








 それはさておき、瀬奈が唐突に質問して来るのにはもう慣れた。


「彼女?ん~、欲しいと思う事も無いわけじゃないけど、『よし!作るぞ!』って気合入れて出来るもんでもないし……って何かあったのか?」


 いつもなら、こういう唐突な質問は単なる思い付きと言うか、呼吸するついでに言葉が出て来た程度でしか無いので今回も恐らくその類だろうと軽く考えていた。


「う~ん……私とかっちゃんって幼馴染じゃない?」

「そうだな。」

「付き合いも長いしお互いの事結構知ってるじゃない?」

「うんまぁ多分な。」

「なのにどっちにも『恋人が出来た』って話が出ないじゃない?」

「少なくとも俺には彼女が出来た事無いからな。」

「私だってそうだよ。」

「それで?」

「何で?」

「は?」


 瀬奈は首を傾げて可愛らしいながらも真顔で俺の目を見ている。

 俺はその目をじっと見詰めたまま瀬奈が何を考えているのかを逡巡する。


 分からん。


「かっちゃんはかっこも悪くはないし、勉強も運動も出来て、気遣いも出来るのに誰かから告白されたとか聞かないでしょ?」


 褒めたいのかディスりたいのかハッキリしろ。


「私はこぉんなに可愛くて、こぉんなにおっぱい大きくて、こぉんなに健気なのに、今まで彼氏が出来た事無いっておかしくない?」


 瀬奈は言葉に合わせて両手を両頬に当てたり大きな胸の膨らみをこれ見よがしにむぎゅっと掴んでみたり胸の前で手を組んでみたり……てか自分は全面的に褒めるやん。


「俺はともかくとして、瀬奈。」

「うん?」

「今まで何人くらいから告白されたんだ?」


 瀬奈が指折り数える。


「10人以上は居たと思うけどそこからは数えて無いなぁ。」

「その内OKしたのは何人だ?」

「ヤダなぁ、そんなの居たら彼氏出来た事あるって事になるじゃん。」

「つまりそういう事だろ。」

「どういう事?」


 見た目も可愛らしくて男好きする体つきで性格も悪くない瀬奈の唯一の欠点は、頭の回転がそれほど速くないどころかちょっとネジが緩んでいる所だ。


「何で誰にもOKしなかったんだ?」

「う~ん……何て言うかぁ……告白されてもドキドキしたりその人と一緒に楽しい時間を過ごしてるところが想像出来ないってあるでしょ?」


 誰からも告白された事のない俺に対する当て付けか?


「今まで告白してきた人たちってみんなそんな感じだから全部断ったのよね。」


 瀬奈はその場にぺたんと座るとそのままころんと寝転がってもそもそと動きながら座ったままの俺の太腿の上に頭を乗せてきた。

 俺は脚の上に乗ってきた瀬奈の頭に手を置いて撫でた。

 瀬奈が目を閉じて気持ち良さそうな表情になった。


「そうそう……こういうのが楽しい時間なのよ……」


 うっとりとした顔をしながら寝惚けたような声で瀬奈が呟く。

 俺が頭を撫でる手を止めると、瀬奈は頭を小さく動かして俺の手に押し付けて来ながら『もっと撫でろ』と催促してくる。

 再び手を動かすと、ふにゃふにゃと気持ち良さそうに今にも猫のように喉を鳴らし始めるんじゃないかという顔に戻る。


「じゃあ俺が瀬奈に告白したらOKになるのか?」

「さぁ?ドキドキしたらOKしちゃうかもね……」

「試してみる?」

「うん。告白してみて。」


 俺は瀬奈の頭を撫でながら、座椅子にもたれていた体を起こして瀬奈の顔を覗き込んで言った。


「瀬奈、俺は瀬奈の事が好きだ。俺と付き合って欲しい。」


 暫しの静寂。

 太腿の上でゆっくりと頭を動かして俺の顔を下から見上げてくる瀬奈。

 俺の目をじっと見ている。








「ドキドキ……はしないね。」

「そっか。」


 少しあわよくばを期待していた俺は何だか恥ずかしかった。


「でもかっちゃんに告白されるのは悪くないよ。」

「それは良かった。」


 俺から目線を外した瀬奈は、俺の腰に腕を回すとその腕にきゅっと力を加えて俺の体を抱き締めて横っ腹に顔を埋めてきた。

 俺はそのまま瀬奈の頭を撫でていた。


「かっちゃんは誰かに告白したとか無いの?」

「無いな。さっき瀬奈にしたのが人生初。」

「あらら……かっちゃんのハツモノ頂いちゃいましたか。」

「いやらしい言い方すんな。」


 瀬奈の頭を撫でていた手を、肩から背中へ、また背中から肩へ。

 手の届く範囲で瀬奈を撫で続けていた。

 瀬奈は俺の腰に回した腕をもぞもぞさせながら、少しずつ俺の体を這い上がってくる。


「告白したいと思える子は居なかった?」

「まぁそれもあるけど、多分瀬奈と一緒だと思う。」

「私と一緒って?」


 俺は3割程体が起き上がってきている瀬奈の脇から腕を回して抱き抱えるような体勢にした。


「こういう楽しい時間。」

「あぁそういう事ね。」


 瀬奈はだらんとした姿勢で俺の脚の上に背中を乗せ、俺の背中と首に腕を回してきた。

 どんだけもぞもぞやってんだ。

 俺が瀬奈の膝の下に手を入れれば『お姫様抱っこ』になりそうな姿勢だ。


「ねぇかっちゃん。」

「ん?」

「ちゅーして?」

「ん……」


 顎を上げて顔を近付けてきた瀬奈の唇に唇を重ねる。

 軽く重ねて離し、また重ね、二度三度と啄むように唇を重ねる。


「他にさぁ、こういう楽しい時間過ごせる人って現れるのかな?」


 瀬奈が唇を触れさせたまま言った。


「現れる気がしないな。」


 率直に思ったまま即答する。

 唇が触れたまま、瀬奈が『ふふっ』と小さく笑った。


「だよね。」


 瀬奈は俺の体に回した腕をきゅっと締めて抱き付いてくる。


「どうした?」

「ううん……」


 少し顔を離した瀬奈が俺の顔を上目遣いに下から見ながら言った。




「何で私達ってこういう楽しい時間を過ごせるような恋人が出来ないのかなぁ?と思って。」




「ホント……何でだろな?」




 抱き合い、唇を何度も重ねながら、その理由について考えてみたが、結局、分かり切っている筈の答えはどちらの口からも出て来なかった。

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