第62話 謎の美少女転校生だなんて


「それにしても、ビックリしたよ!」


 とわたし。飛竜ひりゅう君と並んで、学校の廊下を歩いている。

 生徒会室に呼ばれた帰りだった。


「悪いな、急に呼び出して――」


 飛竜ひりゅう君は謝ってくれるが、


「それもそうだけど……まさか飛竜ひりゅう君が副生徒会長だったとは――」


 わたしは腕を組んで――うんうん――とうなずく。


(放送で名前を呼ばれた時には正直、おどろいたけど……)


 最初は何事なにごとかと思い緊張したのだが、なんて事はない。


 この学校には人外の者も多く通っているため――なにかあれば遠慮なく相談しに来てくれ――という話だった。


「うちの学校は副生徒会長が男子と女子……二人なんだ。選挙も生徒会長と副生徒会長の三人がセットで、その投票の合計で生徒会の役員が決まる仕組みだ」


「へぇー、飛竜ひりゅう君、人気あるんだね」


 わたしは彼の前に出ると、感心した様子で顔をのぞきき込む。

 参ったな――と飛竜ひりゅう君。


「俺は足を引っ張っていたかもな……他の二人の人気が高かっただけさ」


 と謙遜けんそんする。朝からの彼の様子を見る限りでは、色々な生徒に声を掛けられ、頼りにされている印象だった。


「そんな事ないよ」


 わたしは微笑む。あの時もネムちゃんと一緒に、助けに来てくれた。

 きっと、そういう事を続けてきた結果だろう。


 飛竜ひりゅう君は――ありがとよ――とつぶやくと、


「俺の事はいいや……それより、こっちの生活はどうだ?」


 と質問してきた。わたしは、


「ネムちゃんとの暮らしは問題ないけど……学園生活は少し不安かな――」


 転校など、初めての経験だ。

 【魔女】見習いという事で、注目している生徒もいるのだろう。


 時折ときおり――興味本位とは違う――鋭い視線を感じる。


なにかあったら、会長に相談するといい」


「うん、分かった!」


 わたしはうなずく。

 生徒会長は男装の麗人という事を除けば、気さくで話しやすい相手だった。


「それにしても、面白い人だったね」


 わたしの素直な感想に、


「その分、周りが苦労するけどな……」


 飛竜ひりゅう君はそう言って、溜息をいた。


飛竜ひりゅう君の周りは、トラブル多そうだもんね!」


 そう言って――アハハッ!――と笑うわたしに、


「いや、お前もその内の一人だからな……」


 と彼はわたしを指差す。


 ――そう言えば、そうでした!


「ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」


 わたしが深々と頭を下げると、


「いや、俺の方こそ言い過ぎた。なにか力になれる事があれば言ってくれ」


 飛竜ひりゅう君は後頭部をく。


 ――お人好しめ!


(逆にわたしの方が心配になるよ……)


 パンッ!――


 わたしは彼の背中をたたくと、


「うん、頼りにしてるよ」


 と微笑む。飛竜ひりゅう君は――参ったな――という表情をした後、


「ああ、そう言えば――」


 なにか思い出したらしく――今度の休日なんだが――と言葉を続けた。



 ▼▲▼



「――という事があってね」


 帰宅したわたしは、学校での出来事をネムちゃんに報告していた。

 彼女も飛竜ひりゅう君を取り巻く人間関係の概要がいよう把握はあくしているようだ。


 ついつい、わたしの方がヒートアップしてしまう。


「まったく、謎の美少女転校生だなんて、変なうわさを流されても困るよね!」


 そんなわたしの言葉に、


「美少女?」


 ネムちゃんは首をかしげる。


「今の話の流れから……ユズが美少女?――」


 なにやら分析が始まった。

 わたしとしては冗談のつもりで言ったのだが、


「うん、理解した……ユズは可愛い」


 どうやら、変に気をつかわせてしまったようだ。

 リムだと的確な突っ込みが入るので、ついつい同じように話してしまった。


 ――ネムちゃんは真面目な良い子だね!


「ユズは……美少女」


「ゴメンなさい――わたしが悪かったので、今のは忘れてください!」


 とわたしは謝った。今は【魔力】の感知能力を上げる修行の最中だ。

 自分の頭より大きな水晶玉に、わたしは手をかざしている。


 これで周囲の【魔力】の流れを感知するのだ。

 れると、もっと小さい水晶でも出来るようになるらしい。


 普通はおしゃべりなどしないで、集中する方がいいのだろう。

 だが、【魔女】として活動する際、複数の【魔法】を同時にあつかう必要がある。


 そのため――しゃべりながら【魔力】を操作する――という事を行っていた。


(まぁ、確かに……)


 ――戦闘中に集中する時間なんてないもんね!


(わたしには【守人】が居ないし……)


 という事で、今はこの水晶玉に【魔力】を送っている。

 消費する【魔力】によって、感知出来る範囲が異なるようだ。


 水晶玉には、様々な景色が映し出されては消えて行く。

 ある意味、楽な修行だった。


 ただ、一定量の【魔力】を送り続けなければ、頭上に用意された水のかたまりが落ちてくる仕組みになっている。


(そういう罰ゲーム的なノリはらないんだけど……)


 ――まぁ、教えてもらっている立場なので、あまり文句も言えない。


「ああ、それと――」


 わたしは飛竜ひりゅう君に今度の休日、開けておくように言われた事を説明した。

 ネムちゃんと一緒に、港に来て欲しいそうだ。


『デートなら二人で行きなよ』


 とわたしは言ったのだが、どうやら違うようだ。

 なんでも、わたしに会わせたい人物がいるらしい。


(誰だろう?)


 ――分かったよ!


 とわたしはその場のノリで、安易に返事をしてしまった。


(きっと、大丈夫だよね☆)


 ――それより、夕飯なににしようかな?


 そう考えたところで――バシャッ!――水が降って来た。

 ネムちゃんがタオルを取ってくれる。


(ううっ、だから嫌だったのに……)


「ユズ……また、食べ物の事を……考えていた?」


 ネムちゃんが可哀想なモノを見るような目で、わたしを見た。


(切り替えよう……)


 ――よし、休日は皆で遊ぶぞ!


 しかし、まさかあんな事件に巻き込まれるだなんて――

 この時のわたし達はまだ、知るよしもなかった。

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