第32話 友達です!


「すまない」


 男性で、身長はレン兄より少し低いくらいだろうか?


(それでも、十分に長身よね……)


 制服を着ているので、生徒である事は分かる。

 だが、何処どこか高校生とは思えない……大人びた雰囲気をまとっていた。


 落ち着いた様子で――先輩だ――という事は理解出来る。

 しかし、そういう事ではなく――


(外見と中身が合っていない⁉)


 何故なぜか、シキ君と似たような雰囲気を感じる。

 奇妙な違和感――とでもいえばいいのだろうか?



 シキ君は【吸血鬼】であるため、外見と年齢が一致しない。

 そして、皆を見守るような優しさを秘めている。


 だが、目の前のその男子生徒からは伝わってくる感情は――


ひどく冷たい……)


 まるで――すべてがどうでもいい――そんな暗い気持ちだ。


(わたしだけ……なのかな?)


 サヤちゃんを含め、三人に動じた様子はない。

 その男子生徒は口を開くと、


「校門の辺りで生徒が不審者にからまれている――と聞いて来たのですが……」


 そう告げる。同時に、その場の全員がレン兄へと視線を向けた。


(ちょっと、可哀想だけど――)


「オレかよ……」


 トホホ――と溜息をき、レン兄は後頭部をいた。

 サヤちゃんは――仕方がないわね――とでも言いたげな表情を浮かべる。


 彼女は声を掛けてきた男子生徒へ視線を戻すと、


「うちの使用人が、何やら誤解をさせてしまったようね」


 そう言って、静かに彼を見詰めた。

 生徒に限らず、普通の人はサヤちゃんと目が合うとひるむモノだが、


「そうでしたか……確か『朔乃宮家』のお嬢様でしたね」


 涼しい顔で、その男子生徒は返す。


「ええ、そうよ――貴方あなたの名前は?」


 サヤちゃんはサヤちゃんで、明らかに上級生である彼に対し、おくする様子もない。


「これは失礼……ボクは『時任ときとう零士れいじ』といいます」


 これでも、生徒会長なんですよ――と微笑んで見せた。

 一見、さわやかな好青年だ。女子にも受けがいいのだろう。


(今度描く、オリジナル同人誌のネタに使えそうね!)


 ――いやいや、違う! そうではない……。


「トキトーレージ!」


 わたしは思わず、声を上げる。


 ――おっと、先輩を呼び捨てにしてしまった。


「はい?」


 そう言って彼は、一瞬困った表情を浮かべる。


(生意気? それとも――変なヤツだ――と思われてしまったかも知れない……)


「あ、ゴメンなさい! ショーコから色々と聞いていたので……」


 わたしは慌てて言い訳をする。

 彼女から――紹介するね――と言われたばかりなのに……。


(先に会ってしまうなんて――)


「ショーコ……」


 トキトー先輩は首をかしげると、


「ああ、硝子の知り合いでしたか?」


「友達です!」


 わたしは訂正した。


(何だろう? 彼の言い方に腹が立つ!)


 ――本当に彼氏なのかな?


「すみません」


 と彼は言った後――よろしく――と握手を求めて来た。

 しかし、本能的に危険を感じ、わたしはレン兄の後ろに隠れる。


(人見知りのつもりはないんだけど……何でだろう?)


 自分の行動の理由が分からない。

 そんなわたしの代わりに握手してくれたのはレン兄で、


「オレは『鋼月こうづきれん』――よろしくな!」


 迷惑をかけて悪かった――とレン兄は笑顔を浮かべる。

 流石に体格のいいいかつい男性に握手をされて、おどろいたのだろう。


 それまでは、何処どこか仮面をつけたような好青年の表情だった。

 しかし、微かな嫌悪感を顔に出す。


 だけど、それも一瞬の事――彼は、


「なかなか力がお強いようで――」


 冷静に言葉を返す。


「オレはコイツを迎えに来ただけなので――帰りますわ」


 レン兄はそう言って、わたしを――ヒョイッ――と脇に抱える。


(わたしは荷物じゃないんだけど……)


「ああ、すみません」


 とトキトー先輩。

 続けて――キミの名前は?――と誰何すいかした。


「ユズです……『夕月ゆづき優子ゆず』」


 わたしは短く答える――不思議だ。

 顔は好みなのだが、あまり仲良くしたいとは思わない。


「で、お嬢はどうする?」


 レン兄の質問に、


「そうね、一度帰宅するわ」


 とサヤちゃんが答える。


(さっきは――蓮の報告を聞いてから考えるわ――と言ってなかった?)


 ――もう、いいのかな?


「じゃあ、気を付けて帰ってくれよ」


 とレン兄。


貴方あなたもね――さぁ、璃夢……」


 帰るわよ――とサヤちゃんが告げると、


「はい、お嬢様」


 何の疑問も抱かないのか、リムは静かにサヤちゃんの後ろを歩く。

 どうやら、本当に帰ってしまうようだ。


 そして、わたしはそのままのレン兄に運ばれる。

 一人、その場に取り残される形になったトキトー先輩は肩をすくめたが、


「では、夕月さん――」


 さようなら――と頭を下げた。


「あ、はい――」


 さようなら――とわたしは間抜けな格好のまま挨拶をする。

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