第19話 なら、強くなりなさい


「そうだ、わたしが手伝ってあげる!」


(レミが居てくれたように――)


「サヤちゃんが嫌な思いをしないで、皆も楽しく過ごせる方法を考えるの!」


 勿論もちろん、そんな都合のいい方法は無いのかも知れない。


(でも――ルカ君なら手伝ってくれるよね!)


 ――あれ? レミ? ルカ君?


(誰だっけ?)


「なら、強くなりなさい」


 とサヤちゃん。


(その瞳は綺麗で、真っ直ぐで――)


 ――何だろう……この感じ?


められた気がする……)


「少なくとも――自分の身は自分で守れる程度ていどに……」


 そう言って、サヤちゃんは浴槽から上がった。


「璃夢、陽詩――明日から、優子をきたえて上げて……」


 ――なるほど……多分、ここまでがシキ君の作戦だ!


(じゃなきゃ態々わざわざ、サヤちゃんが来るはずがない……)


 サヤちゃんにはリーダーとしての振る舞いをさせ、リムとヒナタちゃんにはやる気を出させる。


 わたし自身も――記憶を取り戻すために――とただ漠然ばくぜんと打ち込むのではなく、仲間である彼女達のために頑張るという目標が出来た。


(そして――深まるきずな――という訳ね!)


「シキ君……恐ろしい子」


 浴槽で震えるわたしに対し、


「ユズ、いつまで入っているの! お兄様がアイスを用意してくれているそうよ」


 とリム。


(それは楽しみね!)


 ――って違う!


(畜生、シキ君め!)


 都合良く利用されたというのに、これでは怒れやしない。



 ▼▲▼  ▼▲▼



 ――ふー、いいお湯でした。


 お風呂を上がったわたし達は、サヤちゃんと別れた。

 アイスはシキ君が、部屋まで運んで来てくれるらしい。


 今はヒナタちゃんの部屋に向かっている。

 わたし一人だと、また迷子になってしまう。


(ヒナタちゃん達と一緒なら、安心だね)


 昨夜、リムの部屋に泊った話をすると――ヒナタちゃんがうらやましそうにした。

 なので、今日は彼女を入れて三人でお泊りだ。


 そのために一度、ヒナタちゃんの部屋で必要な物を準備する。


「ゴメンね、ヒナタちゃん……別に仲間外れにした訳じゃないんだよ」


 ほら、リムは魔除けみたいなモノだからね――と付け加える。


「誰の顔が魔除けみたいに怖いですって――」


(そこまで言ったつもりは無いけど……)


 ――大体合ってる。


「アハハ――逃げろ!」


「ちょっと、待ちなさい!」


 わたしはヒナタちゃんの手を取って、廊下を走る。

 そこへ――ポムッ! 曲がり角で、誰かとぶつかった。


「きゃっ!」


 反射的に悲鳴を上げてしまったが、衝撃は少なく、相手も無事なようだ。

 ただ、胸に違和感がある。


(何かがはさまっているような……)


「おいっ!」


 ――おやおや?


(その声はトーヤ少年だ……いったい何処に?)


「アレ? わたしの胸に顔をうずめて……どうしたの?」


「トーヤのエッチ」


 とヒナタちゃん。その声に反応して、


「違う!」


 トーヤ少年は慌てて、わたしから離れた。


「エッチっちぃ~」


 わたしはそう言って、トーヤ少年を指を差す。


「だから、『違う』と言っているだろ⁉」


 こんなところを走る方が悪い!――とトーヤ少年。


御尤ごもっともな意見である)


 ――だが、わたしは謝らない!


「おっぱい触る?」


「触るか! お前、フザケテいるのか?」


 ――いいえ、揶揄からかっているだけです。


 トーヤ少年の反応が面白いので仕方がない。


(こんな弟、わたしも欲しいな♪)


 指をくわえて物欲しそうに見詰める。

 すると悪寒を感じたのか、トーヤ少年はブルブルと身震いした。


「まったく……ヒナタがなついているから大目に見てやるが――お前も女なんだ」


 もっと自分を大切にしろ――と照れた様子で少年はつぶやく。


 ――あ、やっぱ可愛い♥


(よしっ、これからもドンドン揶揄からかおう!)


 わたしはそう心にちかうのだった。


(まぁ、それはそれとして――)


「そうだ! 今日はヒナタちゃんをわたしの部屋に泊めるから」


(こういう事は、ちゃんと伝えて置かないとね)


 ――後で心配するといけない。


 一瞬、トーヤ少年は――何だと!――と驚いた表情をする。

 だが、ヒナタちゃんの楽しそうな様子を見て、黙ってしまった。


 わたしは、


「あ、一緒に寝る?」


 と質問する。それに対し、


「寝るか!」


 当然のようにトーヤ少年が即答した。


「無理しなくてもいいよ……さびしかったらいつでも――」


「ボクはやる事がある!」


 両手を広げ、ウェルカムなわたしに対し――フンッ――と鼻息を鳴らすと、トーヤ少年は怒った様子で引き返してしまった。


(どうやら、遣り過ぎてしまったみたい……)


 わたしはそんな彼の後ろ姿に――


「おっぱい、触りたくなったら言ってね!」


 と声を掛け、手を振った。


「言うか!」


 律儀りちぎなトーヤ少年の反応に、わたしとヒナタちゃんは一緒に笑う。


貴女あなた達ねぇ……」


 後ろでリムが腕を組み、あきれた表情で立っていた。

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