イケメン、爆ぜよ

花道

現在 -渡井-

第1章 1話 渡井の日常

 毎朝2時に起きて、3時30分に出社する。急いで、歯を磨き、食パンを頬張り、メイクをして、支度する。職場まではタクシーで20分だ。


 あたりは静かさに包まれていて、の光すら一切ない。



 街灯の明かりに照らされ、タクシーを待ちながらふと思う。こんなにもヘンテコなスケジュールに慣れてしまったことに、昔の自分だったら驚いているだろう。習慣は恐ろしい。こんな日常を3年間続けている。



 「5月27日木曜日、今日はラッキーゾーンの日です。今日も一日元気に過ごしましょう。それでは朝のニュースです」

 渡井わたらいアナとしてのが始まる。



「いや、ラッキーゾーンの日って何ですか?笑」


「ラッキーゾーンって言うのは、阪神タイガースの球場である甲子園球場のホームランを出やすくするために設けられたスタンド前のフェンスのことなんですよ〜」


「阪神でホームランが出やすくなったら、それこそ優勝してしまいますね。」


「ふふっ。でも、1991年に廃止されたそうですね。ところで、昨日の野球どうだっんでしょう。まずはプロ野球。昨日の巨人対阪神は4番中山の...」



 今年から入った、芸人の久保くぼ。正統派コンビ、かまいあいのつっこみ担当で、M-1に2年連続で決勝に残っている。トーク力もあり、話が上手く、初めてとは思えない。



 ここまではいつも通りだった。



昨日さくじつ、午後19時36分ごろ、埼玉県さいたま市でひき逃げ事件がありました。被害者の女性、清水しみず〇〇さんは亡くなっており、犯人は捕まっていません。」


「・・・・・・・・・。」


 頭が真っ白になった。清水〇〇。動揺で手の震えが止まらない。高校2年の時、一緒に文化祭でバンドを組んだ〇〇。血の気がだんだん引けていく。



「嫌なニュースですね。...。犯人早く捕まって欲しいですねー。...。近隣の方は注意するようにお願いします。」


 久保は私をフォローし、ニュースを続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る