第2話 決意

ぼんやりしながらパレードから帰った後。

孤児院の皆んながギャーギャーと騒ぐ中、僅かに豆が入った薄いスープとパサついたパンを夕飯に頂きながら私は思案していた。


手入れされず痛んだ亜麻色の髪と深緑色の瞳…この世界に生を受けてから見慣れた己の顔が、具の殆ど無いスープに映り込む。











ここが『君と白薔薇』の世界だとして、漫画の通りにストーリーが進行していく確率はどれほどだろう。


もしかしたら、主人公シャーロットは動物の声を聞く力を持っていないかもしれない。

もしかしたら、王太子のフィンレーはウィリアム様と友人同士にならないかもしれない。

もしかしたら、ウィリアム様は…私が何もしなくても死を回避するかもしれない。




この世界はフィクションじゃない。

現実だ。

必ずしも漫画の通りに物事が進んでいく訳じゃない。


…そう思おうとしたけど。




(もしシナリオ通りに事が進んでウィリアム様が死んでしまったら)

その想像はいとも簡単に私の背筋を凍らせた。














ウィリアム様は、前世の私にとって生きる希望だった。

傷つきながらも懸命に、時に正しく時に優しく生きようとする貴方の言葉は、貴方の生き方は、毎日死んだように生きていた私に生きる理由をくれた。

「たかが漫画でしょ」と、そう言う人も居たけれど私にとってはそうではなかった。



私の中で貴方は紛れもなく生きていた。





そんな貴方が、また死んでしまうかもしれない。
















のろのろと夕飯を食べ終え、身支度をして硬いベッドに横たわる。

暗い中でジッとしていると、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


私に出来る事は限られているかもしれないけれど…こうして前世の記憶が戻ったのは何かの導きかもしれない。

まだウィリアム様が死んでしまうと決まった訳じゃない。




ウィリアム様の生存率を上げるためにはどうすればいいんだろう。




…ウィリアム様は反王族派の襲撃に遭って致命傷を負った。


反王族派を壊滅させる?

…いや、私にそんな権力はない。

傷を癒すために医療を学ぶ?

…漫画で読んだ限りだと、国でも名うての医者が集っても手の打ちようがない様子だった。傷を負った時点で手遅れだろう。そもそも私のような孤児にそんな学費は用意出来ない。


せめて、ウィリアム様の盾になる事が出来れば…。



そこで私はハッと閃いた。

(そうだ…ウィリアム様の護衛騎士になれたらウィリアム様を直接守る事が出来るかもしれない…‼︎)

それは名案のように思えた。

王族や貴族から庶民まで広く門戸を広げ、どんなに身分が低くても腕次第でいくらでも取り立てられる。それが騎士団だ。


(ただ、惜しむらくは騎士団が女性の募集をしていないって事なんだよな)

どうしたものか、と考えを巡らせる。

(…うん。どう考えても、性別を偽るしかないよなぁ)



そうと決まれば話は早い。

確か8歳から入団試験を受けられるはず。

私は今6歳だから2年後だ。

それまでの間、出来る限り身のこなしを鍛錬しておこう。


そう決意して、私は静かに瞼を閉じた。



グッと拳を握り込む。

(ウィリアム様、私が必ず貴方の事を守ってみせます。例えこの身を呈してでも)


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