第11話 聖剣エクスカリバー
「入室を許可する! 入りなさい!」
国王の大きな声が室内に響き渡ると、自らを『イチノセ ジン』と名乗る人物が部屋に足を踏み入れた。
「よう、諸君! この国の救世主にして主人公……
『
そしてその腰には、服装には全く合わない細かく装飾された鞘に納められた剣が携帯されていた。
見たところ年齢は僕とあまり変わらないだろうか……。恐らく高校生くらいと思われるが、身体付きは思いのほか筋肉質に見える。
そして高校デビューしたてなのか、髪の毛は "赤色" に染めており、いかにもクラスに1人はいる——いわゆるお調子者的な存在感を放っていた。
(うわぁ……ダサい、ダサすぎる。さすがの僕ですら、あり得ないと思うレベルなんですけど!)
いきなり口に出しては失礼だと思いつつも、笑いが込み上げてくるので我慢するのに必死だった。
「ちっ……誰もひれ伏さねぇのか? この国はクソだな……」
僕が心の中で笑っていることに、気付く様子もなく吐き捨てるように話すジンは、こちらの様子を端から端まで見渡していく。
「き、貴様! 国王陛下の御前であるぞ! 控えろ!!」
衛兵たちは威嚇のつもりで槍を突き出すが、ジンは『あ? 何様って……俺様だよ!』と鋭く言い放ち全く動じない。
その様子を見かねて、国王が静かに口を開いた。
「君の目的は、一体何だね……?」
「言っただろ? 俺様はこの世界に来た主人公なんだって! でもお前たちはこの俺様に平伏さなかったから、いらないな。このまま全員消し飛ばして——」
そこまで話し、ジンは言葉を止めてしまった。
ある一点を凝視したその表情には、まるで素晴らしい
「そこの女ぁ! お前めちゃくちゃ可愛いな。今日から俺様の女決定だから、隣の付き人から離れてこっちに来いよ!」
ジンはエリィと僕のことを指差しながら呼びつけた。
「ごめんなさい、あなたはタイプじゃないし遠慮しておくわ……。それにアルトは付き人じゃないわ。大事な——
エリィはすかさず、ズバッと言い返す。簡単には動じない様子はさすが王女様だ。
「
「か、かかかか彼氏ではないわよ! ……その……今はまだっ……」
『彼氏』のフレーズで動揺しつつ……『今はまだっ』を、ボソッと呟くように話した途端、耳まで真っ赤になるエリィの可愛さに、僕までドキドキしてしまった。
「はぁ、気に入らねえ……。おい、隣の男。俺様と勝負して、お前が負けたらその可愛い女を寄こせよ!!」
——さて、ここまでは黙って聞いていたけどな。さすがに、エリィをモノみたいに扱った……『寄こせよ!!』という言葉は聞き捨てならないな。
「勝負するのは構わないけど、僕が勝ったら何かいいことでもあるの?」
僕の質問に対しジンは少しの間考え込むと、何かを思い付いたようにニヤリと口角を上げた。
「俺様だけが知っている、この世界の管理者である女神様から聞いた重要な情報を教えてやるよ!」
(本当に知ってるのか? 胡散臭いぞこれ……)
信用して良いか分からなかったが、もしも本当に何かを掴んでいるなら知っておきたいと思った。
「分かった……なら場所を移動しよう。さすがにお城を壊すわけにもいかないからな」
国王許可の元、僕たちは王城に備え付けてある宮廷魔法師の訓練施設を借り、正式な決闘を行う事となった。
***
宮廷魔法師の訓練施設は、学園の決闘場とほぼ同じ造りになっていた。
だが聞くところによると、魔法障壁が常時張り巡らされており、魔法の訓練が最大限取り組めるよう学園以上に頑丈に造られているらしかった。
「早速、始めようぜ?」
そう話すジンが腰に携えた鞘から剣を抜くと、目を覆いたくなるほどの眩い金色の光が周囲に放たれた。
その光は荒々しくも神々しく、誰もが見惚れるほどの美しさを演出しており、本物の強さを秘めていることは明白だった。
金色の光は刃に集約されていくかの如く、次第に小さくなっていったが、その存在感はむしろ一際輝いて見えた。
「どうだ?! 見たか! これがかの有名な——[ 聖剣エクスカリバー ]だ!」
ジンは既に勝ち誇ったような笑みを浮かべ[ 聖剣エクスカリバー ]を構えた。
僕は、パチパチパチパチッと拍手をしながら称賛の言葉を贈ることにした。
「おぉ! 今のはびっくりしたよ。まさか剣に懐中電灯が取り付けてあるみたいにピカピカ光るなんて、眩しくてびっくりだよ……」
「ハッ……聖剣の凄さも分からないとは、とんだザコだなお前。しかも武器すら持ってないところを見る限り、お前へっぽこ魔法使いだろ?」
ジンは僕からの挑発を受けても怒る様子もなく、むしろ逆に煽ってきた。
どうやら余程エクスカリバーの力を信用しているらしい。
「アルト! 気をつけてっ!! 聖剣の本体にも剣撃にも絶対に触れちゃだめ!」
観客席で見守ってくれているエリィが『聖剣』という言葉を耳にしたからか、必死の形相で叫んでいた。
(……聖剣に触れてはいけない? どういうことだ?)
僕が不思議そうな顔をしていると、ジンはそれに気付いたようで鼻につくように喋りかけてきた。
「お前、本当に何も知らないんだな。聖剣に宿る『聖なる力』は、ありとあらゆる『魔法』を
「……つまり?」
「つまり、魔法で防御は不可能! そして聖剣で付けた傷は聖痕として残り続け、一生魔法が使えない身体にすることができるのさ。魔法使いの人生そのものを奪う最強の力なんだぜ!」
(まじか! 聖剣……めちゃくちゃチートじゃないかっ!!)
[ 聖剣エクスカリバー ]を持っているだけで、【剣と魔法の異世界】で『魔法』に対する絶対的なアドバンテージを手に入れていることになる。
……女神様が執拗に勧めてきたり、他の転移者たちが[ 聖剣エクスカリバー ]を選択する理由がようやく分かった瞬間だった。
「アルト、お願いだから戦いをやめてっ!! 聖剣相手だと私たち魔法使いは、あっという間に
エリィのその言葉を聞いて、ジンはこちらを見ながらニタニタと笑う。
『もし、戦いに参加しなければ不戦勝であの女は俺様のもんだ!』 ——そう顔に書いてあった。
(……ごめん、エリィ。どれだけ危険でも、君を失う訳にはいかないんだ)
僕はそんな恥ずかしい台詞を心の中で唱え、ジンと向き合った。
「ハハッ! ザコの割に中々いいぜ。ここまで不利な状況でも立ち向かってくる度胸に免じて……俺様の全力の一撃で倒してやるよ!! ——『
ジンがダサい技名を恥ずかしげもなく叫ぶと、両手で高々と真上に持ち上げた[ 聖剣エクスカリバー ]が再び眩しく輝き始めた。
魔法とは違う別の力——いわゆる『聖なる力』がエクスカリバーに一極集中されていく。
大気が……地面が……訓練場全体が震え、時空が歪むのではないかと思えるほどの圧倒的すぎる力がそこには宿っていた。
(これって、
僕はあまりの眩しさに顔を手で覆い、指の隙間から薄っすらと開けた目で聖剣を確認しながら、ただただ呆然と突っ立っていた。
「こ、これはまずいっ!! そこまで、そこまでじゃ!! 決闘は中止じゃ!!!」
国王もその力の異常さに恐怖を覚えたらしく、取り乱した様子で決闘を止めるよう促してきた。
「ヒャッハッハッハッハッ! ビビって突っ立ってるだけとかだっせぇ! しかも今更やめる訳ねーっての。ザコが消し飛んじまえ!!」
自称、救世主で主人公のジンは、如何にも悪役な台詞を吐き散らしながら、眩しく輝く力の象徴[ 聖剣エクスカリバー ]を真っ直ぐ振り下ろした。
『聖なる力』の剣撃は、輝きを一層増しながら地面を割り、物凄い勢いで僕のところに向かってきた。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
エリィが心配そうに叫ぶ声を耳にしながら、僕は眩しさのあまり未だに顔を覆っている手の指先から、チラッと剣撃の閃光を確認した。
(……うわっ! 眩しいっ!!!)
余りの眩しさに、慌てて力強く瞬きをするように目を閉じてしまった——次の瞬間ッ!
[ 聖剣エクスカリバー ]から放たれた『聖なる力』の剣撃が一瞬で消え去った。
「は? 何だこれ……何で俺様の最強の一撃が消えたんだよ!!! お前、今何をしたんだっ?!」
「何って……眩しかったからただ——瞬きしただけなんだけど?」
この時ジンに何が起こったかなど、分かるはずもない。
魔法では『聖なる力』に対抗できないため、今のは僕が確実に剣撃を受けて、消し飛ぶ……彼の中ではそんなシナリオが行使されていたはずだ。
それがただの——瞬き……でまさか自分の技の方が消し飛ぶだなんて、想像も付かないだろう。
「ハハッ。ハッタリを言うから柄にも無く動揺してしまったぜ。俺様もまだまだ力の使い方に慣れていないから、今回はたまたま消えてしまっただけだな。……次こそ一撃で戦闘不能にしてやるよっ!」
ジンの持つ[ 聖剣エクスカリバー ]に再び輝きが宿り始める。
今回は力が集約されていく途中の段階で、目に力を込めて、ただの瞬きをした。
上下の
そして、その瞬きによる波動がまたもや[ 聖剣エクスカリバー ]に集約されていた閃光を、マッチの火の如く一瞬でかき消した。
「クソッ! クソッ!! 何が起こっているんだ!!!」
激しく動揺するジンに対し、国王が観客席から言い放った。
「フッフッフッ……。お主が今見ているのは
——『どうだ! 【魔帝】様の力を思い知ったか!』みたいに話してますけどね。国王様……これはただの瞬きなんですよっ!!
まるで化け物を見るかのような表情で、僕のことを見つめるジンに対して……僕は決着をつけるべく攻撃体制に入るのだった。
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瞬きの力が半端ないです!(笑)
次回、第12話『女神様のお告げ』もお願いいたします。
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