モブな僕が女神様の勘違いで手に入れた『物理最強』が全能でチートすぎるんです!
月夜美かぐや
第1章 魔帝アルト編
第1話 剣と魔法の世界
僕、
——華やかな学校生活。
——たくさんの友人。
——そして愛しい恋人。
……そんなものは、僕の妄想の中でしか存在しなかった。
いつかゲームやアニメやラノベの、主人公のような人生を送ってみたい。
そう思っていた僕は、とある平日の下校時間に女子高生連続通り魔事件の犯人に、刺されて死んでしまった。
犯人が狙っていた女子高生の近くにたまたまいた……という言わば巻き込まれた形らしい。
その時の痛みや苦しみといったものは、すっかり忘れてしまっているが、恐らくかなり苦しんだに違いない。
そして死後の世界かと思った矢先、僕は真っ白な神殿に来ていたのだ。
「……ってことですよね? 女神様?」
目の前ですごく偉そうに脚を組んで、気怠そうにテーブルに肘をつきながら紅茶を啜っている、女神様と自身のことを名乗る女性に僕は話しかけた。
銀髪で白い肌、そして背景に溶けてしまっているなのように真っ白でレースの施されたドレス姿は、ただただ美人としか言い表せないほどに綺麗だった。
「ええ。正直ここにずっと居られても面倒なんで……とりあえず異世界にでも転移させますね」
(女神様美人だけど……え、適当すぎません? ってか異世界?! まじか! つまり異世界転移……ってことは?!)
「もしかして "剣や魔法のファンタジー世界" ですか?!」
「そうですよ。あなたたち元日本人は好きですよね……剣とか魔法みたいなもの」
そりゃもちろん当然である。僕は期待を胸に抱いてワクワクしてしまった。
「あの、女神様……もしかして、僕にすごい力が宿ったりとかしますか? ほら、村一つ吹き飛ばせるくらいの高威力の魔法が使える大賢者とか、圧倒的な剣技で世界を救う勇者とか……!」
——期待期待期待期待期待期待期待。
まさしく僕の頭の中はそれに埋め尽くされていた。
「え……嫌、あなたは魔法使えませんよ」
「へ?」
「いやいや、あなたのスペックじゃ無理ですって。魔力なんて宿りませんし……体力も筋力も平均以下のゴミ同然です。まあせいぜいモブとして世界のすみっこで適当に生きてください」
(女神様、まじで超適当じゃん……。ここはもっと優しく慰めてくれて、代わりに能力を底上げしておきましたよ……っとか言ってくれるんじゃ……?)
もちろんそんなことはなく、女神様の発言には絶望しかなかった。
「さてそろそろ転移の準備を………ああ、大事なことを忘れてました! そう言えば転移させる前に好きなものを一つだけ与えることが出来るんですよ」
(おぉ! まさかの理想な展開きたッ!)
魔法が使えない以上、ここで何を選ぶかで異世界での過ごし方が変わってしまうため、これはものすごく重要な選択だった。
(うーん……ただ、一つだけってなると難しいな)
選びたいものがありすぎて中々決まらない。
「あのぉ……早くしてもらっていいですか? 私も暇じゃないんですよね……ズズズッ」
おかわりした紅茶を暇そうに啜っている女神様は、ジト目で僕にそう話した。
「すみません。……ちなみに僕の前に転移した人って何を選んだんですか?」
一応リサーチのため、他の転移者たちの選んだものを聞いておくことにする。
「えーっと、あなたの前に来た人は……『聖剣エクスカリバー』を手にしてましたね」
「おお! あの伝説のエクスカリバーですか!」
「いや、私はどのエクスカリバーか知りませんけど。ちなみにその前の人……も『聖剣エクスカリバー』で、さらに前の人は……いえ、前の人も『聖剣エクスカリバー』ですね」
(……いやいや『聖剣エクスカリバー』持ってる人多すぎでしょ! どんだけ好きなのエクスカリバー!)
思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
「参考になりました? そろそろ本当に決めてくださいよ……眠くなってきたのでお昼寝したいですし」
大きな欠伸をしながら、目に涙を浮かべる女神様は僕の存在を気にすることなく、布団を敷き始めた。
(……さて、そろそろ何にするか本当に選ばないと。どうするかな)
【剣と魔法のファンタジー世界】
そう聞くと聞こえは良いが、異世界である以上どんな病気や感染症などの危険があるか分からない。
日本では呆気なく死んでしまった訳だし、次に転移できる保証もないだろうから、より生存できる確率の高いものを選ぶべきだろう。
——それなら……。
ようやく僕は納得のいくものを見つけることができた。
「決めました!」
「やっと決まったんですね。で、やっぱり元日本人の大好きな『聖剣エクスカリバー』ですか?」
「いいや。僕は——『神々と同じ丈夫な身体』(健康的な意味で)にしてください」
(やっぱ異世界で病気になったら困るしな……)
「え……えええぇぇぇぇ……『神々と同じ丈夫な身体』(物理最強的な意味で)なんてねだる人は初めてですよッ!!!」
(悪かったな……僕だって今回は平和で元気に過ごしたいんだよ)
この時、僕は女神様に
女神様は、ゆっくりと立ち上がり僕の方に近付いてくると、どこからか杖のようなものを取り出し頭に当ててきた。
不思議な温もりを数秒程度感じた後、女神様から『はい、おしまいです』と声をかけられた。
(こんなんで、本当に変化してるんだろうか)
「今ちょっと疑いましたね? 転移への手順は神々の掟なので、さすがの私もきちんと守りますよ……さてようやくお別れですね」
「いよいよ異世界に!」
「まあせいぜいモブとして、どこかの村で農業でも楽しみながらスローライフを楽しんでください」
女神様は最後にそう伝えると、異世界に通ずる扉を開き、そのまま敷いていた布団に潜り込んでしまった。
僕は誰からも見送られる事なく——【剣と魔法の異世界】へと旅立った。
***
異世界に到着すると同時に、急な眩しさに目が馴染むまで数十秒ほどかかった。
「おぉ……ここが異世界か」
太陽は出ているが少しばかり曇っている空……そして目の前には生い茂る木々に、舗装されていない凸凹の道。
「なんか異世界ってもっとドキドキするかと思ったけど、これじゃあただの田舎道だよな……」
もっと異世界に来たという実感が欲しかったと残念に思っていたところ、僕は少し離れたところで何やら悲鳴のような声を聞いた。
(空耳? いや確かに悲鳴みたいなものが……)
「だ、だれかぁ……だれかたすけてください!!」
(おぉ! 異世界に来ても言葉は分かるぞ!)
この手の異世界転移では、最初に言葉を知らずに苦労することもあるので、これはラッキーだった。
ただ、言葉が分かることに感動を覚えている間もない。
悲鳴を聞く限り声の
(異世界に来たばかりだし、逃げるべきなんだろうけど……放ってはおけないよな)
僕は勇気を振り絞り、悲鳴が上がった方へ近づいて行った。
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