第54話
☆☆☆
コウダイとの約束の日はあっという間にやってきた。
といっても丸1日一緒にいるわけじゃない。
あたしたちはお互いの学校が終わってから合流する約束をしていた。
そのため、朝からあたしはソワソワしっぱなしだった。
「あたし、霊感あるんだよねぇ」
A組の教室へ入ってすぐ、いつものようにクラスメートのミキコの声が聞こえてくる。
「へぇ、すごいねぇ」
数人の女子生徒たちがミキコの言葉に耳を傾けている。
オカルト好きなあたしも何度かミキコの話を聞いたことがあったけれど、よくある都市伝説をそのまま説明しているだけだった。
ミキコ自身に霊感があるなら、もっと楽しい話ができるはずだから、きっと嘘だろう。
「まぁた言ってる」
自分の席へ向かう途中、マナミとリサがミキコを睨みつけているのが見えた。
この2人は目立とうとするミキコのことを毛嫌いしているみたいだ。
あたしはそんな2人に目もくれず、自分の席に座った。
今日は初めてコウダイと2人で会うんだ。
教室内の余計な人間関係に首を突っ込むつもりはなかったのだった。
☆☆☆
そして、待ちに待った放課後がやってきた。
コウダイとの約束場所はお互いの中学校の中心にあるファミレスだった。
ここから歩いて10分ほどの場所だ。
学校が終わるとあたしはまずトイレに入って鏡で自分の姿を確認した。
特におかしいところはないと思うけど、一応ブラッシングしておく。
薄くリップを塗って、鏡を確認してみると、そこにはすごく緊張している自分の顔が映った。
「リラックスしなきゃ」
コウダイと会うのはなにもデートをするためじゃない。
そんな勘違いをしちゃいけない。
自分自身に言い聞かせて、深呼吸。
「よし、行こう」
あたしはようやく、トイレから出たのだった。
待ち合わせ場所に到着したとき、コウダイは先に来てジュースを飲んでいた。
「ごめん、遅くなった」
「いや、俺も今来たところだよ。なにか注文する?」
ここまで歩いてきたのと緊張とで、喉はカラカラになっていた。
ドリンクバーで麦茶を持ってきて、ようやくひとごこちついた。
「それで、アプリの話だよね?」
「そう。これなんだけど、見たことある?」
コウダイはテーブルの上にスマホを出して画面を見せてきた。
そこには《具現化アプリ》というものが表示されていた。
「なにこれ? 見たことないけど……」
「だよな。なんでも、このアプリに写真やイラストを取り込むと、それが現実世界に出てきてくれるらしいんだ」
コウダイの説明にあたしは瞬きをした。
「3D映像で飛び出してくるってこと? それとも、VRなの?」
コウダイは左右に首をふる。
「そうじゃない。映像じゃなくて、実際に出てくるんだよ」
コウダイの真剣な表情にあたしはキョトンとしてしまった。
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