第12話
☆☆☆
教室の入口へ向かった瞬間、そこにマナミとリサが仁王立ちしているのが見えた。
2人の後ろに吉田さんの姿もある。
3人を見てあたしとノドカは同時に立ち止まっていた。
3人から伝わってくる威圧感に足がズッシリと重たくなった。
「ちょっとあんた。朝からなに騒いでんのよ」
マナミは腕を組んであたしを睨みつける。
身長は同じくらいなのに、マナミみたいに奇麗な子から睨まれると、つい委縮してしまう。
「トイレに幽霊が出たんだよ」
そう言ったのはノドカだった。
マナミは今度はノドカを睨みつける。
「はぁ? あんたたち、まだそんなこと言ってんの?」
リサが呆れ声を出す。
「そんなことばっかり言ってるから、イジメられるんでしょ?」
吉田さんがニヤついた笑みを向けてくる。
イジメを裏で誘導しているのは、もしかしたら吉田さんかもしれない。
「本当だよ。見てくればいいじゃん」
アプリの時間は2時間に設定してある。
今からトイレに行っても十分に間に合う。
あたしの言葉に3人は目を見かわせた。
「わかった。でも、もしなにもいなかったらボコボコにしてやるから」
マナミはそう言うとリサと吉田さんの2人を引連れて女子トイレへと向かう。
「ついて行こう」
あたしの耳元でノドカが言う。
あたしも3人がどんな反応をするのか確認したかった。
3人の後ろについてトイレへと戻った時だった「ギャアアアア!!」というマナミの悲鳴が聞こえてきて、次いで3人がトイレから走って出てきたのだ。
3人とも顔面蒼白で、足をもつれさせながら教室へと戻っていく。
その途中で吉田さんがこけてしまい、立ちあがることもできなくなってしまった。
きっと、恐怖で腰が抜けたんだろう。
その様子を見てあたしとノドカは同時に噴き出した。
「あははははは!」
「見た今のこけ方!」
お腹をかかえ、吉田さんを指差して笑う。
当の吉田さんは反論する気力も残っていないようで、廊下に転んだままガタガタと震えていたのだった。
☆☆☆
それから1日中、学校内ではトイレの幽霊の話でもちきりだった。
「キミコって本当に霊感があったんだね。今まで信じてなくてごめんね」
「今日は本当にビックリしたよ。幽霊なんて初めてみた!」
あたしの周りには絶えずクラスメートたちが溢れていて、次から次へと幽霊話をせがまれた。
あたしは今までついてきた嘘を思い出し、それを面白おかしくみんなに聞かせる。
輪の中にはもちろんノドカの姿もあった。
マナミとリサの2人は途端に大人しくなってしまって、『幽霊』という言葉が聞こえるたびにブルブルと震えていた。
2人は異様な怖がりだったのだ。
腰を抜かしてしまった吉田さんはそのまま早退してしまった。
これであたしの邪魔をする人間は1人もいなくなったのだ。
あたしはいい気分で、クラスメートたちに幽霊体験を聞かせたのだった。
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