【連載第一弾#8】First Contact

 謎の女性との会話に途中から朝まで眠ってしまってた。


 酒を飲みフワフワとした気分になってしまったのだが、色んな事を聞かれてすべて素直に答えてしまっていた。

 その女性が、私を”地球人”だという事を知っていたからだろうか。

 それだけではない何かの力が働いていたように思う。


 誰にも話していなかった宇宙船の話までしてしまった。


 なぜ話してしまったんだろう...。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



 さて、いつどこで会うかを決めていなかった。


 森のクラゲ亭を出て、すぐに行く当ては失ってしまっている。


 何かを知っていた謎の女性に会わなくてはならない。


「とりあえず、扉のあった場所かもしれない…」


 女性との会話で扉の話をしてしまっていたので、もしかしたらその辺りにいないだろうか。

 街を出たその足で、扉があったはずの場所に戻る事にした。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



『君は勘が鋭いな。』


 やはりその女性が現れた。

 声を聞いてわかるほどには特徴がある声をしている。


「ここくらいしか思い当たる節が無くてね。それより、起こしてくれてもよかったじゃないか。」

『ごめんねー。酔っ払ってたからー。そのままにしておいたよ。』

「ぐっすり寝てしまったよ。従業員さんに起こされるまでずっとね。」

『そっかそっか。それより本題だ。この辺りに扉があったんだよね。』


 宇宙船から来た時、確かにこの辺りに出て来たはずだ。

 もちろん、何度確認しても跡形さえ残っていない。


「そうなんだ。ちょうどこの辺りに、このくらいの大きさで…」


 体全体を使って、大きさを表現する。

 大人だと少し体を小さくしてくぐらなければいけないサイズ感を伝えた。


『そっか。それじゃ、いい事教えてあげる。誰にも言っちゃダメだよ。』


 そう言うと、少しずつこっちに向かって歩いて来た。


「な、何なんだ?」

『宇宙船がどこにあるかわからないんだよね?』

「そうだ。どこにあるかも、帰り方もわからない」

『実はね…帰る方法知ってるんだ。』

「本当ですか!?」


 驚いた。帰る方法を知っているのか!

 ここには宇宙開発の技術があるのか?

 それとも、扉のような不思議な力を使うのか?


「どうやってやるんですか?!」

『それはね、、、ここから街を挟んで山の向こう側にあるんだよ。』

「山の向こう…。何があるんですか?」

『"宇宙探査機"さ。』

「それに乗れば…」

『そう。それに乗れば、宇宙船に戻れる。』


 宇宙船に戻れる。

 地球に戻る為に、まずは宇宙船に戻らなくてはいけない。

 迷いはない。


 僕は期待に胸を躍らせて、その女性の後を付いて行った。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



 山は腰と膝に来る。

 曲りなりにも一子の父だ。歳も若いわけではない。

 サラリーマンだった地球にいたことから、運動不足は否めない。


「そろそろですかね…。」

『なんだ、体力ないなぁ。もうすぐもうすぐ。』


 さっきから、何度ももうすぐという言葉を聞いている。

 山登りは娘との親子遠足以来か。

 何年も前のことだし、あの頃はもうちょっと体力があっただろうか。


『ホントにもうすぐだよ。ほら。』


 山の雑木林の中の山道を歩いていたのだが、突然広場のような場所に出た。

 そこには、大きな岩のような塊が鎮座している。


『ちょっと待っててね。』


 その大きな岩のような塊には、草木が摘み上がっていて、それをバサバサと除けていく。


 すると、それほど大きくはないが、鉄の塊が現れた。


「これが…」

『そう。これが宇宙探査機さ。これで宇宙船に帰れるはず。』

「で、どうすればいいんですか?場所はわかりませんよ。今も進んでいるはずだし。」

『もちろん、ここからも見えないしね。必要なものが一つだけある。』


 私が出来ることなら何でもする。帰れるのなら。


『その宇宙船の時に、長期に渡って宇宙船の中にあったモノ。それさえあれば、何とかなるよ。』

「宇宙船の中にあったモノ…。宇宙服か…今着ている服…。もしくは…。」

『じゃ、服ちょうだい。』


 えっ…いや…それは…。


 肌着なんか着ていない。どうしよう…。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



ーーー ナルサス衛兵施設 ーーー



 衛兵総長のサトーに報告が入った。


 昼頃、街の外れにお尋ね者とここに拘束されていた謎の人物が歩いていたというものだった。


 ここに拘束されていた謎の人物は、あの地球人だろう。


『たしかに、私が仕事を預けた者でした。』

「そうか。しかし、お尋ね者とは…どの人物だ?」

『遠目だったので、恐らくなのですが…』


 目を疑った。

 指名手配の張り紙を見せて来たのだが、その人物は私もよく知る人物だった。


 元々は仲間だった者だ。

 とある事で対立してしまい、道を分ける事となった。


 その後、山賊まがいの事を繰り返し、国からの尋ね人となっていたのだ。


「あいつ…」


 地球人とヤツが一緒にいる…。

 嫌な予感がした。

 そして報告が続いた。


『それより数時間前、朝でまだ寝覚めてすぐの事なんですが、そのお尋ね者を”森のクラゲ亭”で見かけていたんです。多分ですけど。』

「森のクラゲ亭で…?」

『はい。朝食をとっていた時に見かけまして、その時はピンと来なかったんですけど、今思えばその人物で間違いないと思います。』


 朝に森のクラゲ亭で…?私が訪れる前に居たという事か。

 地球人は前日まで途方に暮れていた様子だったのに、私が訪れた時には"地球に戻れるかもしれない"と言っていた。


「まさか…。まずい!」

『え?総長?何か?』

「馬を、馬を出せ。今すぐ。」

『あ、はい。どうしたんです?』

「いいから、馬だけ出してくれればいい。話しは後だ。」


 私は馬に飛び乗り、急いで山に向かった。


 間に合ってくれ。


 ”地球人”、そいつはお前を騙そうとしている。

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