【連載第一弾#2】First Contact

 窓の外は相変わらず真っ暗で、轟音が鳴り響いた。


「な、なな、なんなんだ!!!!?ちょ、ちょっと大丈夫か!!?」


 何かがぶつかったような音がしているが、それよりも宇宙船の耐久性の心配が真っ先に浮かんでくる。


 ここは宇宙空間。


 放り出されれば、おそらく2分と持たない。


【 ギィギギギギィィィ… 】


 どうしようかあたふたしている中、外では何かが宇宙船と接触したようなギリギリとした音が聞こえてくる。


 不安が不安を呼ぶ音と振動。


 しばらくすると音が止み、足元から伝わってくる揺れも止んだ。

 じっと窓を見ているが、何も動きはない。



「...おーい。」


『............。』


 当然と言えば当然だが、反応は返って来ない。

 外は宇宙空間でほぼ真空。

 もし何かとぶつかっているとして、そこに意思疎通が取れる何かがいたとしても、真空で声は伝わらない。


 静けさだけが流れていく中、何度も外を見たり、宇宙船の中を見渡したりした。


 中から見るに、何も起きてはいない。


 もしかして、夢?


 というわけではなさそうだ。感覚が研ぎ澄まされている。

 目もパッチリと冴えている感覚がある。

 夢でないとすれば、ほぼ間違いなく宇宙船に何かがぶつかっている。


 どうやって確認しようと思案していると、


ー コンコン、 ー


 すぐさま音のする方向に目を向ける。


「え、そっち?」


 思った方向とは違う。窓とは逆。


ー コンコン、コンコン、 ー


 ノック?扉の方向からノックのような音が聴こえた。

 音は定期的に、かつだんだん回数が増えてくる。


ー コンコン、コンコン、コンコン、 ー


「は~い。」


 しまった!と思ったが、もう声にしてしまった。

 家にいる時のような返事をしてしまった。


ー コンコン、コンコン、コンコン、コンコン、 ー


 ノック回数は増していく。

 これでは、埒が明かない。


 私は、音のする方に歩みを進める。


ー コンコン、コンコン、コンコン、コンコン、コンコン、 ー


 扉は二重になっている。

 宇宙服を着て、船内側の扉を開け、二重扉の中に入る。


ー シューーーーーーーーー! ー


 二重扉を密閉し、空気を抜けていく音がする。


ー コンコン、コンコン、......... ー


 途中から音が消える。もうほとんど真空だ。


「さぁ。何がいるのか。」


 勇気を出して、宇宙側の扉に手を掛ける。

 ぐるぐると、大きな鉄のバルブのようなロックを回していく。


(ギギィ)


 音は聴こえないが、何となくそんな音が鳴っている気がした。

 扉を宇宙空間の方へ押し込んだ。


「!!!?」


 扉を開けると、声にならない驚きの光景が広がっていた。


「え、こ、こんな...。な、何だこれは...」


 この宇宙船の扉にぴったりとドッキングしたかのように、通路が続いていた。

 通路の構造を見渡す限り、しっかり密閉されているようにも見える。


 機械的な構造。

 静かな空間。


 今ここは真空状態だ。

 何か音がしていても聞こえるはずがなかった。


 通路の向こうは薄暗いが、光源が見える。


 赤色の小さなライトが点灯している。

 そのすぐ下の壁にスイッチのようなパネルが見える。


「進む、しかないか。」


 このまま放置しても、この通路がこちらの宇宙船にドッキングしているようで離てくれそうにない。


 しかし、あっちに行きかけて、宇宙船が切り離されてしまったらどうしようか、という恐れを感じながらも、思い切って前に進もうと決めていた。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 通路の奥、距離があるわけではないのだが、正面には扉が見える。


 近づいてみると、さっき見つけたパネルには、読めないが文字のような物が描かれている。

 それに、『ボタンを押す/ボタンを押さない』と読み取れるような絵が添えてある。


 パネルをタッチすると、扉が開くのだろうか。

 もし開かなかったり通路ごと切り離されれば、腰に繋がっている命綱を頼るしかない。


「お父さんのいい所見せないとな。」


 地球にいる娘にいい所を見せたい。謎の見栄を張る。

 そうでもしないと進むだけの勇気が沸いて来ないのが本当の所だが、こんな時でも家族に背中を押される。


ー (ピッ) ー


ー ・・・・シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ ー


 空気が注入され、圧力が増す。

 少しずつ音が聞こえて来た。


 そこで鳴っていた音は、扉の機会音、空気の流れる込む音。


 空気音がしなくなり、ライトがグリーンに変わった。

 入っていいというサインだろう。

 どうやら、この宇宙船自体は人類に近いテクノロジーを持った生物が作ったもので間違いない。


ー ギィィィィィィィィ ー


 扉は意外にも簡単に開ける事が出来た。

 軽い扉を開け、中が見えてくる。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 誰もいないように見える。


 開かれた扉の奥は、暗い中にも点々とライトが点いている。


ー ドスン!ー


 扉を閉めた途端、重力を感じたかと思ったら、ストンと床に倒れ込んでしまった。


「いたたた......って痛くはないけど言っちゃうな。」


 しばらく立ち上がれず座り込んでいたが、少しずつ目が慣れて来て周囲の様子がわかって来た。


「すいませーん。誰かいませんかー?」


 返事は返って来ない。


 壁面には、スイッチは入っていないが、所々にパネルや画面が付いた機械のようなものが埋め込まれている。


 その中に、一つだけ異彩を放つものがあった。

 木造で両開きの扉と、いくつかの引き出しのついた棚だろうか。

 宇宙船生活を続ける中で、木造のものを見る機会は全くなく、懐かしい感覚を覚える。


「さすがに開けるわけにはいかないな...。」


 人の家に勝手に上がり込んでいるような状態。そこで棚を勝手に開けるなんて、泥棒と変わらないじゃないか。


 そう心では思っているが、自然と手が伸びる。


「いやいや、人の家だぞ。」


 地球人としての葛藤は、宇宙空間では無意味だったらしい。


ー カタッ キィィィィ ー


「あっ...」


 ほぼ無意識に開けてしまった。扉は軽く、建付けもいい。

 罪悪感を感じながらも、中を覗き込むと、そこは信じられない光景が広がっていた。


「こ、これって...絵じゃないよな...動いてる...。」


 驚きつつも冷静に目の前に広がっている光景を分析してみる。

 そこには、どこか見たことのない街が映し出されている。

 映像、というよりは、その向こうに街が広がっているような、そんな感覚だ。


「…踏み出すしか、ないよな。」


 人類の偉大な一歩になるかもしれないな、と想像を膨らませながら、木造棚の扉の中に入ってみた。

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