雑談賭博

天倉彼方

第1話 プロローグ

最近のボッチ系主人公は望んでボッチになってたり、ボッチ最強説を唱えるのが多くなっているが、俺は望んでボッチになるほどの猛者じゃないしボッチ最強説もあまり信用していない

だってよく考えてみてほしい、今地球上生態系の頂点に立っているのは人間だ、これは間違い無いと思う

だが、なぜ人間が並み居る動物たちの中で一番になれた?なぜ他の種より繁栄できた?

答えは簡単、あらゆる環境に適応して数が多く統率が取れたからだ、一個体のスペックでは熊やら鳥やら魚やらその道のスペシャリストには全く歯が立たないだろう、しかしこちらもその道のスペシャリストを用意して対策してやれば圧倒的優位に立てた、熊に対しては銃で撃退し、鳥に対しては飛行機で制空権を侵すことに成功、魚に対しては船やら潜水艦で専売特許を奪うことを成し遂げた

これらの発明全てをボッチは成し遂げられるだろうか?そもそもボッチというのも周囲に他人がいて始めて成立する、存在そのものからして他人を必要としているわけだ、そんなんで自分は一人で生きてきたとか一人で頑張ってきたなんて到底言えないし思えない、世界にただ一人だけ存在したとしてもそれはボッチと言えるのだろうか?

そんな状態ならボッチという概念すら生まれない

つまりボッチという陰キャは人気者という陽キャがいて始めて存在を観測できる

だがしかしそれは逆に陽キャも陰キャがいなくては存在できないことを示唆している

光があるから影があり、影があるから光がある



結論 お前ら陽キャでいられるのは俺という陰キャがいるからだぞ、感謝しろ



俺の名前は亀井 甲

星海高校に通う善良で一般的なボッチな高校一年生



まぁなぜこんな暴論をプレゼンしてるのかというと、俺は人生に一度の高校デビューを失敗したのであった

初対面の掴みは中々好感触だったのだが、徐々につまらない人間性が露呈してしまい今に至る。



よく考えてみるとどんなことしても人生に一度だから

わざわざ「人生に一度」と形容する必要もないと思うが、こんなこと人に言ってみろ「お前そんなこと言ってるから失敗したんじゃねぇの?」と飽きられてしまうこと必至。




そう返されたらだんまりを決め込むしかない俺は今日も今日とて無気力な傍観者に徹する。




順風満帆に円滑な人間関係を築く者もいれば、友達同士でバカやって笑っている者もいるし、そして異性同士で恋愛を楽しむ者もいる。



俺からするとそれが何万光年も離れた星ほど距離を感じ、天体観測ならぬ学生観測に勤しむわけだ。




別に青春を謳歌してる奴らを貶すつもりも蔑むつもりもない、むしろ眺めてるぶんには何が起ころうが無責任でいられる、人間だったら発光する暇もなく一瞬で蒸発するという非常事態の流れ星に対して、遠目で見るには綺麗だのロマンチックだのみんな言うだろ?それと同じでもっとやれって感じだ。



そう心中野次を飛ばしていたら、黒の短髪に黒目、活発そうな好青年といった容貌の男が入ってくる

我等が担任の宮野武蔵先生だ、なんでも自分の名前がかの大剣豪と同じことから剣道を始めて学生時代にはインターハイ出場までしたことのある猛者らしい

まぁこの剣豪とやらはご存知、新免武蔵守・藤原玄信のことだろう。



「お前らにいい知らせをやろう、今日は転校生がくるぞ」



その言葉の意味を理解すると、学生達にざわめきと波紋を生み。



「お!?!なにそれ!?どんな子?!」とか



「女子?!?ねぇ女子?!?美少女?!」だの



「男子はほんとそればっかほんとアホだわ〜、ところで男子!?!?ねぇ男子!?!美少年?!?」


といった具合にそれぞれ勝手に発言する。




なんか女子も男子も全く同じ反応してると思うのは俺だけだろうか?俺からするとどっちも似たようなもんだ。



ただクラスメイトと言う名の観察対象が一人増えるだけなのだから。



だが、他の奴らはそれはもうキーキー騒ぐ騒ぐ、転校生というイベントはそうそうお目にかかるものじゃない、来る方も迎える方も正しく「人生に一度」という単語に匹敵する珍しさだ。



あっという間にまとまりのない烏合の衆と化し、皆が皆自分の願望や欲望、要望を吐露する合唱団と成り果てる。



だがその騒音に終止符が打たれた。



「静かにしろ〜ほら入って来い」



途端教室に静寂が満ち、件の転校生がついにその姿を現した。



流れる黒髪に黒目、高くも低くもない鼻、わずかに赤みを帯びた頬、桜色の唇、そして平均以上の胸にスレンダーな体型、しかしせっかくの整った顔だが無表情を貫いており冷たい印象を抱かせる。



どっからどう見ても美少女、どれくらいかと言うと思わず心の中で流れるだの桜色だのポエムってしまうぐらいには可愛い。




そしてそう評価を下したのは俺のみじゃなかったらしく、すぐクラスの男子は色めき立ち、女子連中は後ろからどす黒いオーラが出ている気がする。




俺はというと、真面目でキツそうな性格してそうなので自分と接点が薄そうな上あの見た目だこのクラスにドラマティックな物語を展開してくれるに違いない、観察しがいがあり良い暇つぶしになると内心喜んでいた。



「じゃあ自己紹介をしてくれ」



無言でチョークを持ち、字を書いていく……書き終わりこちらに振り向き。



「宇佐美 月乃です、どうぞよろしく」



っと簡潔に述べた。



「……え〜とそれだけか?」



「はい」



「あ〜〜まぁみんな仲良くしてやってくれ、何か質問あるやついるか?」



学校名物の「〜あるやついるか?」からの誰も手を挙げない展開。




かと思った矢先に、金髪にピアスやらチェーンやらを身につけ、現代の若者を体現してるような男が挙手する。




「はいはいはい!」



「うん?なんだ赤井」



「彼氏いる??」




見た感じ冗談通じなさそうだからその定番中のテンプレ質問やめた方がいいと思ったんだが。



「いないわ」



「え?まじで?!じゃあ俺と付き合わない?!」



「時と場所を選んでください、初対面の人間のプライベートを聞いてくる常識のない人とは付き合えない、生理的に無理というやつね」




教室が氷河期に突入したと錯覚するレベルの沈黙が生まれる。




「あー、赤井、とりあえずお前座れ」



「ひゃい」



「で、他に質問あるやついるか?ちゃんと真面目なやつだ」




……………誰も挙手しない、当たり前だ今のやりとりを見てこの女に絡もうなんて正気の沙汰とは思えん

中にはハァッハァッ興奮してるやつがいる気がするが気のせいだろう。



「じゃああの席座ってくれ」




「はい」




ここで俺が主人公だったらとなりに彼女が座るんだろうが、このクラスの主人公はあのイケメン君だ。



性格と見た目がイケメンな男は自然なスマイルを彼女に向けて挨拶する。



「俺の名前は佐藤鷹、よろしくね宇佐美さん」



「よろしく、佐藤君」



以後、休み時間や放課後に彼女に話しかける人物はいなかった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る