第5話聖女ムーブは終わりです

やばやばやばい。


絡んできたゴロツキを身体強化でしてるところを、シオンにばっちり見られてたよ~。

私は宿のベッドでゴロゴロ頭を抱えた。


しばらくゴロゴロして止まる。

……まあイグニス様に見られたわけじゃないし、いざとなれば、シオンに黙っておいてもらえばいいし……

そう思うと少し落ち着いた。


さっきのは気のせいということにしておいて貰おう。

よし、解決。



私は気が楽になり、すやすやと眠るのだった。



翌日、パーティメンバーと宿の食堂で顔を合わせた時は少し緊張したけど、シオンも特に何も言ってこなかったから良かったあ。

今日は、魔物が発生しているというダンジョンに潜る予定だ。


そのダンジョンは古代遺跡の一つで、中は色んなギミックがあるらしく、引っかからないよう気を付けないといけない。


私も自分の荷物を背負うと、皆でそこへ向かった。



♢♢♢



古代遺跡のダンジョンは中が不思議な光で光っていて、明るかった。

天井も高くて、何だか荘厳な雰囲気がする。

こんなところに魔物がいるなんて、不思議な気がするな。


と、最初は思っていたけど……


「くっ、イグニス!打ち漏らした!」

「カバーする!」


リアナはもう魔力が尽きて、剣でしか戦っていない。

イグニス様もかなり魔力を使っているから、いつもは見たことがないほど、動きに精彩がない。


シオンもかなり疲れてきているのが分かった。


やばい。


ここのダンジョンに湧く魔物はすごく数が多くて、私たちは今一番奥の部屋で、その大量の魔物と戦っていた。


まだ半数くらい残ってる……



うん。



私はもういいや、と心を決めた。

聖女ムーブとか、人の命を無視してまでやるようなものじゃない。


私の魔力はまだほとんど減ってない。私がやらなきゃ誰がやるんだ!

「皆さん!少し後ろに下がっていて下さい!私が前に出ます!」


「フェルマッ!?」

「何をする気なのっ!?」

「……っ」


驚く顔のイグニス様たちをよそに、私は魔力を全身にみなぎらせて跳躍した。


そして、

殴る!蹴る!吹っ飛ばす!叩き潰す!

ドカッガスッドバン!べちいっ


ーーーーーんぎもぢいいいいっーーーーー!!

やっば。なにこれ。脳内麻薬出てるわ。


私がはっと我に返ったときには、魔物は1匹も残ってなかった。

振り返ると、唖然とした顔のイグニス様と、リアナと棒立ちするシオン。


「えーーーと……。残念聖女でごめんなさい……」


しーん。としたあと。



…………


「あーーーあははははは!!な、何言ってるんだよフェルマ!」

イグニス様がお腹を抱えて笑い出した。


リアナも笑ってる。シオンはーーーよく分からないけど、肩が揺れてるから笑ってるのかな?


「え……だって、聖女なのにこんな脳筋ちっくで、がっかりさせたんじゃないですか?」

戸惑いながら言うと、


「あははっはは!何が?全然がっかりなんてしないよ!むしろ凄すぎてびっくりしちゃったくらいだよ!」

「ほんとよ、フェルマ。あなたそんなに凄い力持ってるんだったら、早く言ってくれたら良かったのに。でも本当にあなたのおかげで助かったわ。ありがとう!」

「ーーーまあ知ってたけど、ここまでとは思わなかった。何を気にしてたんだか知らないが、お前のそれは誇れることなんじゃないか?」


珍しくシオンまで長文でそんなことを言ってくれて、私はプルプル震えた。


「うーーっ、み、みなさーーん!ありがとうございますーーー」

あれ?私なんで聖女ムーブなんてしてたんだっけ?

あ、そういえばイグニス様に相応しいように、って思ったからだっけ。


でも、イグニス様はそんなの関係ないって言ってくれた。


いつの間にか私は、いつもの聖女ムーブな喋り方もしていなかったけど、そんなのも全然どうだっていい、って言ってくれた。


なーんだ。良かった。私、もう自分を飾らなくていいんだ。

このままでいいんだ。

嬉しい。


私は泣き笑いの顔で、みんなの元へ歩いて行った。


ーーーーと、ふと足元に何かの印を見つけたと思うと、それが急に光り出して、


「フェルマ!」

一番近いところにいたシオンが、私を突き飛ばしたけど、私の視界は真っ白になった。

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