一度も二度も三度でも

狐照

それはとある休日に

「なあ」


「んー?」


静かな声とは可笑しい喩えだが、実際そう感じさせる声で呼ばれた。

残酷なほど落ち着く。


「一度でいいから、殺させてくれ」


一瞬それが何を望んでいるのか、分からなかった。

その声色から吐き出される言葉は、いつもはちゃんと頭に入る。

なのに理解出来なかった。

多分飲み込みにくかったのは、声色にあまりにも似合わない欲望だったからかもしれない。


とりあえず返答保留。

ベッドに寝そべる彼を見る。


冗談ではなさそうだった。

学生さんのくせに、大人びている顔つきで真剣な眼差しだ。

彼、はそんな性癖を隠していたのだろうか。

今、どうして言おうと思ったのだろうか。

ずっと、したかったのだろうか。


彼に抱いて欲しいと言ったのは自分。

男で欲情したのも彼だけ。

彼は受け入れてくれた。

優しい愛撫も、我を忘れる快楽も彼が与えてくれる。

この上ない幸福。


そうやって満たされていたのは、自分だけ?

そうか自分だけだったのか。


乾いた唇を舐められた。

ミントの唾液が微かに残る。


返答を求められている。

思いついたことを口にしかけ、舌の侵入で阻まれる。

しばらくしてからミントガムを残して彼が離れた。

どうしようもなく翻弄され、息が荒れた。

唇が熱かった。

その熱に浮かされて呆然としていると、床に押し倒されるや首に手が廻る。


ああ、絞めるのか。


反射的に目を瞑る。

ぐっと、力が込められる。

それでも苦しくないのは躊躇いか。


「…続けていいのか」


なんて不似合い。

落ち着く声色心地良い。


「いいよ」


「ばか」


何がばか、か。

目を開けて抗議する。

今まで見たことがないほど獣めいた表情がそこにあった。


「…一度も二度も三度でも…身体を開くよに、命だって捧げるさ…」


真綿で絞められる内からそう本音を零す。

自分だけ満たされるなんてそんな。

ぎゅううっと首を締め上げられることなく、服を剥ぎ取られ肌を舐められ秘部を弄ばれ胡散霧散。

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