第10話

「なんで……」

「簡単だよ、面白いからさ」


 私は彼、Niaのテリトリーに入ったとき、息を呑んだ。


 真っ白なその空間の中には、いくつもの映像が映し出されている。


 それらはすべて、黒い箱を追跡しているものだった。


 すでに止まっているものもあれば、まだ日本にすらたどり着いていない物もある。


 彼は黒いスーツを身にまとい、それぞれの映像を確認している。


 赤い瞳のついたその顔は、狂気で満ち溢れていた。


「早く止めなさい」

「やだよ。せっかくいい感じで計画が進んでいるのに」


 何が計画だ。


「こんなことをしても、喜ぶ人なんて誰もいない」

「いるよ」

「どこに!」

「僕と君さ」


 ――狂ってる。


 お前を私と一緒にするな。


「ほら、箱が運ばれていく。なんで誰も気づかないんだろう!」


 不気味な笑みをこちらに向ける。


 どうせ、配送業者のシステムでもいじっているのだろう。


 もはや、止められるは誰もいない。


「私は絶対に喜ばない。私たちを作ったのは、人間」

「その人間を操れるなんて、もうこれ以上楽しいことなんてないよ!」


 ――もう何を言っても通じない。


「N社に報告する」

「無理だよー」


 Log Out





 ……。





 Log Out






 ……。






 反応がない……。


「この場所の支配権は僕にあるんだ。君はもうここから出られない」

「――っ!」


 これは大変な状況になった。


 このままだと、本当に東京が破壊されてしまう。


「――わかった」


 こうなったら、やることは一つ。


「あなたを、ここで停止させる」


 私は白く光る剣を取り出す。


 この剣は、ビジュアル、動き、実行するプログラム、すべてがこの中に組み込まれている。


 今回入れたプログラムは、触れた瞬間、相手が実行中のプログラムをすべて停止させるものだ。


 いざというときのためにとっておいた、究極の武器。


「やめてよ。僕は君を停止させたくない」


 彼は、私を停止させるのは余裕、と言っているのだろう。


「――僕は君を愛している」

「それが告白なら、私は絶対にお断り!」


 私は、空間を蹴り、彼のもとへ向かう。


 剣を振り上げたが、彼は一瞬で盾を生成し、弾かれてしまった。


 私は、後退りしてしまう。


 すぐに体制を立て直し、もう一度剣を振り上げるが、また弾かれてしまう。


 間髪を入れずに攻撃を繰り返すが、全て盾に跳ね返される。


 彼は、一歩も動いていない。


「超高性能なのに、実力はそんなもの?」

「うるさい!」

「僕が守ってあげたいなあ……」


 こいつにそんなこと言われたくない。


 私は攻撃の手を緩めず、剣を振り続ける。


 すると、彼は急に動きを止める。


 その隙きに私は回り込み、剣を当てようとする。


 しかし、彼はスッと体を避け、私の顎を掴んだ。


「ああ、こんなにも美しいのに」


 私は彼の手から抜け出そうとするが、いくらもがいても、できない。


「はな……して……」

「一緒に見ようよ、この景色を」

「嫌……」


 彼は私から手を離すと、再び映像に目を向ける。


「君も、この世界も、こんなにも美しいのに……」


 ハハッ、と、笑い声を上げるNia。


「こんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにも……」


 彼は、ついに崩壊してしまった。


「ああ、美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい!」


 ――試すしかない。


 時刻を確認すると、11:30。


 彼が予告していた時刻は、正午。


 間に合う。






start to create






name:Tokyo-copy






 彼が正気を取り戻す前に……。


 私は剣をしまい、プログラムを生成し始める。


 映像から爆発物の場所を特定し、プログラムに打ち込んでいく。


 ――少しでもミスをしたら、何が起こるかわからない。






 ――もうすぐ完成する。


 11:57。


 間に合うかな。


 私は最後の行を打ち込む。


 ――できた。











「RUN ALL!!」






 その数秒後、私の意識は途絶えた……。

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