夢物語
碧羽ゆかず
第0話
私と彼が出会ったのは、高校2年生の冬だった。
寒い寒い日。学校からの帰り道。途中まで一緒だった友達と別れ、帰路を辿っていた。
……今日はちょっと寄り道して帰ろう。
急に思い立って歩いてきた道を引き返した。
私が住んでいる町は海のすぐそばで、小さい頃からの遊び場で、何か悩み事があるといつも海に来ていた。波が悩みを洗い流してくれる気がしていた。
……あれ?誰かいる…?
地元の人も来ない、ちょっとした岩場。そこがいつもの私の場所だった。1人で考え事をするのには、誰もいない方が良かったから、人が来ないような場所を選んでいた…はずだったんだけど。
今日は人がいた。後ろ姿しか見えないけれど、男の人。しかも、見たことがない人だった。
小さい町なので、町の人たちは大体が顔見知りのようなもので、見たことがない人は割とすぐにわかる。
…今日は帰ろう。
そう決めた瞬間、その人は急にこっちを振り返った。
「…誰?」
低過ぎず、かといって高いわけでもない静かに発せられたその声は、驚くほど心地いい声色だった。
…いや、誰?って私のセリフなんじゃ…?
「この町の者ですけど…あなたこそどちら様ですか?この町の人じゃないですよね?」
すごく不機嫌な声で放った言葉に、男の人はなぜか小さく笑った。
その顔がとても綺麗なものに見えた私は、思わず固まってしまった。
「確かに僕はこの町で生まれ育ったわけじゃない。でも今日からこの町の一員だよ。越してきたんだ、ここにね」
優しい言い方だった。子供を諭すような、そんな言い方だった。
「ここが君の場所だったなら、勝手に入ってしまったこと、謝るよ……君の名を聞いてもいいかな?」
「…人に尋ねるときは自分から名乗るものなんじゃないですか」
「ははっ…君面白いね…気に入ったよ。僕は
「…私は
……これが私、ただの女子高生、斎藤深月と自称売れない作家の斎城密都の出会い。
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