読書以外の趣味

「佐藤くんって読書以外の趣味は何かあるの?」


 放課後、ふたりきりの図書室で吉川が切り出した。


「意外と多趣味だよ、僕」

「へぇ、例えば?」

「そうだね……まずは植物栽培」

「植物栽培? ガーデニング?」


 吉川が意外そうな目をする。あまりイメージが湧かないのだろう。


「ううん、植物栽培。日当たりとか水やりの頻度とか条件を変えながらどんな風に育つか観察するんだよ」

「……変わってるね」

「そうかな?」


 朝顔の栽培日記みたいで結構楽しいのに。


「えっと、他には?」

「最近力を入れてるのはペン習字だね。少しずつ字が綺麗書けるようになるのが実感出来て楽しいよ」

「結構いいかも。字が綺麗な人って素敵だよね」


 吉川は感心したような表情を浮かべた。


「あとは……料理も良くするよ」

「え、そうなんだ」

「うん、手持ちの和食本のレシピは大体作ったし、そろそろ洋食に挑戦かなって思ってるとこ。オーブンを使ったレシピが多かったからそのうちお菓子も作ってみたい」

「へー……すごい……ね」


 何とも言えない表情を浮かべている吉川。どういう表情だろうこれは。


「あれ、信じてない? 何なら今度お弁当でも作ってこようか? それほど手間でもないし」


 実際に作ってきたとあっては信じるしかないだろう。そう思っての提案だったが――


「興味はあるけどお断りします。私の立つ瀬がないので」


 吉川が手を前に出して待ったをかけた。

 確かに恋人でもない男に弁当を作って来られるのは微妙かもしれないな、と反省していると、おずおずといった様子で吉川が口を開いた。


「でも私もこれから練習するから、もう少し腕が上がったらお弁当交換してみたいな。……いいかな?」

「もちろん。腕によりをかけて作るね」


 どうやら嫌ではなかったらしい。それに吉川の作ったお弁当が食べられるということにいっそう気合を入れたが


「いや、むしろそんなに頑張らないでいいから!」


 なぜか焦ったように止められてしまう僕であった。

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