午後九時三十五分の決意

「これ全部、律君が撮ったの?!」


雪音さんは、僕のカメラを持ち上げながら、興奮が抑えきれないとでもいうふうな様子で、写真を眺めていた。


「はい。一応。」


僕は恥ずかしさと嬉しさを抑えて答える。


「凄い、プロみたいじゃん!」


雪音さんは、止まらずに僕を褒め続ける。


昨日、強引に写真を見せるという約束をさせられた僕は、普段使っている一眼レフを持って公園を訪れていた。


やっぱり雪音さんに見せてよかった。


自分の顔が自然と緩む。


これからは、雪音さんのために撮るのもいいかもしれない。


僕の頭にそんな考えが浮かんだその時、先程まで写真に釘付けだった雪音さんが急に顔を上げた。


「こんなに上手だったら、プロを目指そうとかは思わないの?」


『プロ』・・・。


その言葉を聞いた瞬間、自分の心臓が跳ねる。


「えっと、プロですか。」


「うん、そう。」


雪音さんはいつもと変わらない純粋な声で、返事をする。


「だって、こんなにたくさん撮ってるし、一度くらい思ったことないのかなぁ〜

 って。」


雪音さんはカメラのレンズを僕に向け、写真を撮るジェスチャーをした。


「いや、ないですよ。そんなの・・・。」


僕はレンズから視線をずらす。


「本当に?」


雪音さんはカメラを下ろすと、僕の顔を覗き込むようにして質問してきた。


「本当です・・・。」


僕は答える。


しかし、雪音さんは僕の言葉に、納得がいかないという顔をして、さらに質問をしてきた。


「じゃあ、なんで目合わせてくれないの?」


「いや、それは・・・。」


僕は的を射た指摘に思わず黙り込む。


「律君って案外わかりやすいよね〜。動揺するとすぐ目逸らすし。」


雪音さんは、悪戯っ子のような笑みを浮かべて僕を見た。


けれど、雪音さんの目からは、不思議と悪意を感じない。


こんなの、逃げられるわけがない。


僕は心の中で、白旗を上げる。


彼女の純粋な瞳に見つめられ、僕は真実を話すことを決心した。

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