第77話日曜集会の録画に元は慎重 吉祥寺のクラブで中村は懸念を語る

マルコ神父は、話題を変えた。

「日曜の集会での演奏を録画したいと思うけれど、どうかな」


元は、少し考えて、答えた。

「どうなのか・・・」

「初めての本番で、満足できる演奏ができるのか、それはまだわかりません」

「自分がどうのこうの、ではなくて、相手と充分に合わせきれるのか」

「もちろん、ベストは尽くしますが」

「でも、今後の検討のために、録画はしたほうがいいのかな」


シスター・アンジェラ

「もし、納得できれば、信者のサイトにアップしようかと」


元は、驚いた顔。

「それは、気が早過ぎるかと」

「納得できるかどうか、全くわからない」


シスター・アンジェラは、念を押す。

「納得できたらいいかな?」


元は、頷いた。

「わかりました、恥ずかしくない演奏ができたなら」


元の答えを聞いて、マルコ神父とシスター・アンジェラは、満足そうに、元の部屋から出て行った。




その頃、吉祥寺のクラブでは、マスターが、エミ、ミサキ、ユリに「元が鎌倉で暴行されてから現在まで」の状況を説明。

また、中村と杉本もいて、マスターの説明を補足した。


エミは涙ぐむ。

「可哀想に、酷い目にあって・・・でも、救われてよかったね」

ミサキは目頭をおさえる。

「時々、すごく暗くなるからさ、自暴自棄になって、海に入ったのかな」

「私たちが原因?お持ち帰りして・・・」

ユリは肩を落とした。

「・・・もう・・・お持ち帰りなんて、出来ない」

「神の罰があたるよ」


マスターは首を横に振る。

「いや、そうではないと思うよ」

「エミもミサキもユリも、元君を愛しただけさ」

「悪気はないだろ?面倒も見た」

「浮気でも何でもないしさ」

「人を救う行為は、聖なる行為って、シスター・アンジェラが言っていた」


中村厳しい顔で口を開いた。

「まだまだ、元君が普通にピアノを弾く、音楽の世界に復帰するには、課題が多い」

「下手をすれば、命だって奪われるかしれない」

「それも金目当てに」


全員の顔が、こわばる中、中村は続けた。

「事故を装って、元君を殺す」

「実行犯は、博多の戸籍もない極道」

「死亡保険金は、養母の田中晃子に入る」

「教会に預けたのは、その不安もあったから」

「千歳烏山にいれば、放火を装って殺されることもある」


杉本が、不安な顔。

「もし、元君が酔いつぶれていたとか、そうなると・・・」


中村は厳しい顔を変えない。

「いや、その前に、千歳烏山の家に入って、元君を殺してから火をつける」

「その方が、あいつらには確実」

「とにかく、血を見るのが大好きな一家だから」


ミサキは身体を震わせる。

「お持ち帰りどころじゃないよ・・・」

エミは泣き出した。

「命張っても守りたいよ・・・可哀想過ぎる」

ユリも泣いてしまって、声が出ない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る