第69話元の家で(3)美由紀と奈穂美の敗北感 中村VS深沢講師

美由紀と奈穂美は、それぞれに、春麗に対する「敗北感」を味わっていた。

とにかく、春麗は、全ての作業が手際よく上手。

そして、指示も的確、全く付け入るスキがない。

そのうえ、顔もスタイルにも「勝てる自信」が全くない。

さらに決定的なことは、「あのクールな元」を、コントロールしていること。

それでも、春麗が部屋から出ている時に、お互いに、ため息をつく。

美由紀

「元君がこの家に戻る4週間後に再アタックする・・・それまでは負けているしかない」

奈穂美

「春麗以上の何かがないと、元君には見向きもされない」


さて、そんな女子大生二人の内心はともかく、春麗特製の中華弁当の昼食は終わった。

すでに、鎌倉の教会に運ぶ物は積み込み済みなので、次は銀行で、元のキャッシュカード再発行になる。


マルコ神父が全員に声をかけた。

「それでは、銀行経由で、鎌倉へ」

「行ける人だけで結構です」

「教会には多くの人がおりますので」


中村は行く予定になっているので、「私は行きます」と返事。

美由紀と奈穂美も、やはり行きたいので「行きます」と同時に返事。


そんな話になり、全員が立ちあがると、玄関にチャイム音。

続いてインタフォンから、深沢講師の、かん高い声が聞こえて来た。

「ねえ!元君!いるんでしょ!」

「開けなさい!」

「言いたいことがあるの!」

「それから奈穂美ちゃんもいるんでしょ!」

「見かけたわよ!」

「あなたのお母様、とんでもないことを!」


元と奈穂美は、途端に嫌そうな顔。

「俺には、あの人には用はない」

奈穂美

「私だって関係ないもの」


中村が、立ちあがった。

そのまま歩いて玄関を開けた。

そして深沢講師に自己紹介。

「元君の弁護士をしている中村と申します」

「元警視庁です」


その自己紹介の口調が厳しいのか、深沢講師は、途端に顔を青くする。


中村は厳しい口調で、続けた。

「あなたの言い分も、あるでしょうが」

「それも、噂で聞く範囲ですが、あなただけの都合に過ぎないのでは?」

「あなたの味方をする人は、います?」

「地区文化祭の主婦コーラスと、あなたの京都旅行が、あなたの確認ミスで同じ日に」

「当初から決まっていた主婦コーラスの伴奏を、あなたの身勝手な都合で、元君や、元君に断られると、奈穂美さんに押し付けようとした」

「今日は、それが広まって、恥をかいた逆恨みですか?」

「そもそも、ご自分のミスからでは?」


また涙顔になる深沢講師を、中村は責めた。

「あまり酷いと、強要罪になりますよ」

「あなたの強引さと、しつこさを嫌がって、元君はこの家を出るしかなかった」

「そんな実被害が発生しています」

「嫌なことを無理強いする権利が、あなたにあるのですか?」

「元君と奈穂美さんは、あなたの奴隷と思っているのですか?」

「地域の警察に連絡しましょうか?」

「一定の指導は当然、あると思いますが」


深沢講師は、また泣き出した。

そのまま、踵を返した。

「みんなで・・・私を苛めて・・・何が面白いの?」

「酷過ぎる、全員が意地悪で、悪魔だよ」

そんなことをブツブツと言いながら、帰って行った。


元は、また嫌そうな顔。

「それでも、深沢さんは、自分の気が済むまで、言って来る」


そして、見えなくなって、小さな声で続けた。

「コンクールの後も、あんな感じで」


全員が元の次の言葉に、注目している。

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