第68話元の家で(2)中華特製弁当を囲んで

中村は、権利書と賃貸契約書を、再び引き出しにしまった。

引き出しは奥まで差し込むと、鍵がかかるタイプのようで、ここでは鍵を使わない。

「土地と家屋の所有者、賃貸契約についての証拠書類は、全て揃えてありますので、ご心配なく」

「むしろ、ここから持ち出すほうが、万が一の心配があります」


マルコ神父が含みのある顔。

「中村様が何故、引き出しを開けることができたのかは問いません」

「それよりも、本多佳子さん、つまり元君の祖母との話をお聞きしたい」


シスター・アンジェラが、マルコ神父を制した。

「まだ、元君には聞かれないように」

「二階の物音も静かになって来ましたので」


中村とマルコ神父が、その意見に頷く。

中村

「私も、教会にご一緒します」

マルコ神父は中村に頭を下げる。

「それは助かります」

中村は、辛そうな顔。

「とにかく、今のままでは、元君が可哀想過ぎる」

「それも、後ほどに」


マルコ神父とシスター・アンジェラが頷くと、階段をバタバタと降りて来る音。

春麗、元、美由紀、奈穂美の順にリビングに入って来た。


春麗

「荷物を積み込んだら、お食事にしましょう」

元は、春麗の顔を見る。

「お寿司でも取るの?」

春麗は首を横に振る。

「お弁当を余分に作って来たの」

「特製中華弁当」


美由紀と奈穂美が目を丸くすると、春麗は再びテキパキと指示を出す。

「まずは、持って行く荷物を車の中に」

「それが終わったら、お弁当の入ったクーラーボックスを運びます」

「美由紀さんは配膳係、奈穂美さんはウーロン茶を入れて」


そのまま、元は当然として、若者たちが素早く動き、中華弁当のお昼となった。

肉団子、鶏の中華風唐揚げ、青椒肉絲、エビチリ、中華チマキ等で、一旦電子レンジで温めて全員に取り分けられた。


マルコ神父

「さすが春麗、手回しがいい、味もしっかり」

シスター・アンジェラ

「お店に引けを取りません、美味しいです」

中村は笑顔。

「警察の時は、仕出し弁当で500円がせいぜい」

「これなら2000円出しても、安い」


元は、美味しいらしく、バクバクと食べている。


美由紀と奈穂美は、春麗の「凄さ」にショックを受けていたけれど、中華弁当の美味しさにはかなわないらしく、箸が止まらない。

それどころか、美由紀と奈穂美は顔を見合わせてから、春麗に弟子入り志願。


美由紀

「鎌倉まで習いに行きます、この味を出したい」

奈穂美

「薬味の加減を知りたいなあと」

春麗は余裕の笑顔。

「はい、お待ちしております」

「美味しさが広がることは、神もお喜びになります」


すると元が、珍しく女子の話に口を挟んだ。

「春麗先生は厳しいよ、俺も負けた」


美由紀と奈穂美が思わず、顔を見合わせると、マルコ神父が笑う。

「頑固者の元君を?」


春麗がクールサインをすると、元以外の全員が大笑いになっている。

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