第60話尾高も失脚 クラブでかん口令

各マスコミや所属する政党から袋叩き状態になり、公開謝罪、そして辞職の意思を発表した大物の佐伯都議に続き、その3日後に、世界的な大指揮者であり、ピアニストの尾高についても、重大な疑惑報道がなされた。


「女子音大生、女性演奏家へのセクハラ、交際強要が常態化」

「それも、数十年に渡る」

「匿名での告発が膨大」

「身体を提供させられた上に、現金も請求された」

「そうしないと、ステージに出してもらえない」

「断ると、別の女性がステージに」

「出してくれたのは、1回か2回」

「お金だけを払って無視された」

「身体も金も断ってからは、全く仕事が来なくなった」


それ以外にも、重大疑惑は報道された。

「各種コンクールの審査員をした時に、秘書を使って金品の無心」

「出した金額の多寡で順位が決まった」


コンクールでの金銭授受疑惑の報道の中で、辞職を発表した佐伯都議との関連も表沙汰になった。

また、「田中元」の名前も、数年ぶりにマスコミに報道された。


「尾高は、佐伯前都議の娘が、コンクールに出た時の審査委員長」

「事前予想では、尾高に指導を受けていた佐伯前都議の娘が優勝候補」

「娘を恣意的にコンクール優勝させ、それを政治利用するのが目的か?」

「ところが、当日、佐伯都議の娘が、ミスを連発して受賞できず」

「田中元が、明らかに素晴らしい演奏のため、優勝した」

「しかし、後日なぜか、賞状とトロフィーを自主返納」

「田中元は、その後、ステージ活動を全くしていない」


マスコミ各社は、千歳烏山の元の家に取材で出向いた。

しかし、元は鎌倉の教会付属病院に入院しているので、家には誰もいない。

また、元の居場所を教える人も、見つからない。


業を煮やしたマスコミ各社は、パリにいる元の両親に連絡を取った。

しかし、両親とも、全く無関心。

「よくわかりません、お答えはできません」

の答えしか得られなかった。


そのような報道の中、マスターは、当日の午後3時に、吉祥寺のクラブに中村や杉本、美由紀と奈穂美まで集め、相談をかけた。

「それでね、元君の居場所は秘密にして欲しい」

「元々、個人情報なので、口に出すべきでもないが」

「マスコミが鎌倉の教会とか病院に押し掛ければ、迷惑になる」

「せっかく身体も気持ちも回復して来ている元君が、またダメージを負う」


奈穂美は、初めて見るクラブなので、少し気圧されながら、マスターに質問。

「あの・・・例の深沢先生が、聞いて来るかも」

中村が答えた。

「とにかくしつこい人らしいけれど、知らないと言い張って欲しい」

杉本は苦笑い。

「地区のおばさんコーラスで地に落ちたけれど」

「かつての指導講師なんて言い出して、また威張るのかな」

「まあ、軽薄そのものの女だから、その上しつこい」

美由紀は杉本に質問。

「音楽マスコミが、こんなスキャンダルを?」

杉本は、含み笑い。

「まだまだ、あるよ」

「音楽マスコミは、ギャフンと言わせたくてね」

「とにかく彼にはひどい目に遭っているからさ」

「でも、これで彼も終わりかな」


マスターが続けた。

「大学の吉村教授と三井さんにも、連絡済み」

「当然と了解を得ている」

「店の客にも、言わない」


クラブに集まっての話は、そこで一旦終わり、奈穂美と美由紀を帰した後、中村が別の相談。

「おそらく本多家のばあさんが記事を読む」

「マルコ神父とシスター・アンジェラ、それから俺と杉本さんで連携するよ」

「任せて欲しい」


マスターは深く頷いている。

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