第49話教会病院別室にて(3)

中村は杉本のタブレットに一旦目をやり、ゆっくり目な口調。

「まず、今日の午前中に、高輪の教会の児童施設に、杉本さんと訪問して来ました」

「それは、元君がかつて、そこの施設にいた、ということ」

「杉本さんが、高輪の施設の園長様と面識がある、取材歴がある、それを活かしました」


全員が頷くのを見て、中村は続けた。

「また、私も、かつては警察関係者」

「かの施設から、鞭の音、子供の泣き叫ぶ声、包帯を巻いた子供たちの姿の噂を聞いたことが何度も」


マルコ神父とシスター・アンジェラは、厳しい顔。

吉村教授と大学職員三井は、眉をひそめた。


中村は、ますます、ゆっくりとした口調。

「それと、児童売買の噂」


マルコ神父とシスター・アンジェラは、ますます厳しい顔。

吉村教授と大学職員三井は身を乗り出した。


雑誌社の杉本がタブレットに取り込んだ動画を見せる。


ずっと黙っていたマスターが口を開いた。

「元国民的アイドルグループの女の子が泣きながら赤子を抱いて」

「国政野党の大幹部と一緒に施設に入って行く」

「私が持っている闇情報では、例の国会前デモの時期に関係が始まったとか」


タブレットの動画は、野党の大幹部が、現金が入った封筒を、元国民的アイドルの女の子に手渡す場面に変わる。


マスターは、小さな声で続けた。

「これも闇情報で、他にもあるらしい」

「ただ、下手に出すと、命も危険なのでね」


中村が手でマスターを制した。

「それは、また別の時に」

「今は、元君の、本当の父母の話に」


マルコ神父の顔色が変わった。

「秘密を・・・あの園長は守らなかった?」

シスター・アンジェラも、理解できないようで、中村の顔を見る。


中村は、落ち着いた顔。

「いろいろと話をしていく中で」

「児童施設に対しての税務署の無通告調査の噂」

「児童虐待の近所の噂」

「それから児童売買の情報」

「さっきの動画も、それとなく」


シスター・アンジェラは、理解した様子。

「それを、立て続けに・・・園長は小心者」

「大混乱に陥って」


中村は、シスター・アンジェラを制して、続けた。

「教会施設で調べた事実を、そのまま言います」

「まず、元君の実の父です」

「世界的に有名な指揮者、山岡氏」

「それから、母親も音楽家、今はニューヨークのオーケストラに」

「かつての指導教授と学生の関係です」

「正式な結婚はしていません」


マルコ神父とシスター・アンジェラは、既に知っているので、表情は変わらない。

吉村教授と大学職員の三井は、かなり驚いたようで、顔を見合わせている。


音楽雑誌社の杉本が中村を補足する。

「山岡さんは、例の尾高さんとは違って、生真面目なタイプ」

「浮ついた話は聞かなかったのですが」

「元君が生まれた当時は、奥様もいて」

「今は、お亡くなりで独身」

「奥様との間にも、子供はいません」

「話を戻します」

「元君を施設に預けて、少しして、オランダのオーケストラの常任指揮者になっています」

「ですから、ご出世前の、万が一のスキャンダルを恐れたのかも」


別室の中は、重苦しい雰囲気に包まれている。

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