第37話高輪教会付属施設の調査報告(3)

杉本が続けた。

「それでね、園長先生が震えていたから、話題を変えたの」

「そう、元君の話にしたの」


中村は頷く。

「そうしたら、園長の顔が、不安そうになった」

「その時点では、理由は不明だった」


杉本

「捨て子の話は、すぐにはしなくてね」

「元君の今の生活を話したの」

「つまり酒浸りとか、特に食生活が酷いとか」

「千歳烏山の家にもらわれてから、ずっとコンビニのパンと牛乳とかね」

「元君に聞いたら、ほとんど家で料理を作ってもらったことがないとか」

「両方とも、全く家にいないとか」

「そしたら、園長先生も・・・ああ・・・とため息」


中村

「俺も聞いてみたのさ」

「もらった夫婦は、本当に元君に愛情とかあったのかいってね」

「それを確認して、安心して里子に出したのかいってね」


杉本は、中村を見て、プッと吹く。

「マスターの前だから、こんな言い方」

「園長先生の前では、マジに厳しい尋問」

「声を荒立てたりはしないよ」

「でもね、一言一言が、冷たくて重いの」

「怖いなあって・・・さすが鬼刑事で」


マスターも苦笑い。

「味方だからいいけどさ、敵には出来ない」


中村は、それには答えず、話を続けた。

「園長は、震えていたから、また、話をぶり返してやった」

「税務調査が入ると、徹底的に全ての書類を見るよ、とか」

「また震えたから、鞭と子供の泣き声の話」

「どれほど怖い人に護ってもらっているつもりでもね、そういう連中は、いざ、危なくなるとすぐに逃げるとかさ」

「園長先生の身だって、わからないよ」

「鞭の話もあるし、現金もね、とかさ」


マスターは、中村の話を手で制した。

「それで、気弱な園長を脅したのは、わかる」

「その話はもういい」

「俺が聴きたいのは、元君の本当の親だ」

「それを聞き出せたんだろ?」


中村は、深く頷いた。

「結果的には、秘密扱いで、白状した」

「出せとは言っていない、けれど、園長が震えて出して来た」

「脅かしたから、錯乱状態かもな」


「それで、元君の書類と署名を見た」

「コピーはしない約束だったけれど、写真を撮った」

「撮ってしまえば、こっちのもの」

「園長は気づいていない」


マスターが首を傾げると、杉本が中村を補足。

「中村さんのメガネは、カメラ付なの」


杉本が鞄からタブレットを取り出し、それに取り込んだ「撮影した秘密書類」を、マスターに見せる。

すると、マスターの顔色が変わった。


「おい!マジか!」

「母親は・・・あの?」

「父親が・・・え?」

「何で、こうなる?」

「養父母は?」

「そんな関係で?」


マスターは顔を赤くして、タブレットの画面を見続けている。




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