第36話高輪教会付属施設の調査報告(2)

マスターは苦々しい顔になった。

「酷い話だなあ、警察は何している?」


中村は、首を横に振る。

「申し訳ないが、被害届もない」

「簡単には捜査できない」

「おそらく病院にも行かないから、医師とか看護師からの通報もない」


マスターは、中村の顔に「苦しさ」を感じた。

「他には、議員先生の圧力?」


中村は、「さあね」と、否定も肯定もしない。

そして話を続けた。

「そのまま見ていたら、駐車場にBMが入って来た」

「驚いたよ、元国民的アイドルグループの若い娘が赤ん坊を抱いて降りて来た」

「少し間をおいて、野党の大物、スーツ姿で」


杉本が冷静な顔で、口を挟む。

「ご心配なく、全て録画してあります」


中村の声が低くなった。

「約20分して、元アイドルと野党幹部が戻って来た」

「その腕には、赤ん坊はない」

「元アイドルは、泣いていたな」


杉本はスマホの録画を見ている。

「その議員先生が、分厚い封筒を渡すと、また泣いて」

「おそらく300万から、500万の現金かな」


マスターがつぶやく。

「手切れ金か、口止め料だ」


中村は続けた。

「すると、すぐにレクサスが来て、議員先生が乗った」

「元タレントは泣きながらBMに」


マスターはため息をつく。

「それだけでも、すごいゴシップだな」

「しかも、録画があれば」


中村は話題を変えた。

「それを見終わって、ようやく施設に入った」

「杉本さんは、施設の取材」

「やはり知り合いで、何の文句も言われずに入れた」

「俺は、知り合いって言ったら、疑いもされなかった」


マスター

「それで取材をしたのかい?」

杉本が答えた。

「少しはね、音楽慰問の話を中心に」

「世間話みたいなもの」


中村が、含みのある笑顔。

「それでさ、園長にカマを掛けてみたのさ」

「最近ね、極秘情報だけど、こういう施設にも、無通告の税務調査が入るとか、入らないとか、それを聞いています?ってね」


マスターは、ニヤッと笑う。

「性格悪いね、中村さん、さすが元警察」

「脅かしたの?」


中村は、フンと鼻を鳴らし、続けた。

「そしたらね、園長先生の顔色が、真っ青」

「何か知っていますって・・・聞いて来てさ」


そして杉本を見た。

杉本も、含み笑い。

「私が、それには答えないで、違う質問をしたの」

「さっき、元アイドルと・・・野党の大先生が?」

「そう言えば、私の社の関連する芸能雑誌で、手を握り合っている写真が」

「それを言ったら、園長先生が、ますます震えて」


中村は続けた。

「おまけに、杉本さんは、スマホの例の録画を見せているしさ」

「ここまで来れば、話は楽」

「園長先生が机の中から、また分厚い封筒を持って来てさ」

「元アイドルがもらったのより厚い、ほぼ一千万かな」

「もちろん、いらねえって断った」

「ただ、録音は続けているよ」


マスターは、肩をすくめた。

「マジに、あんたたち、性格悪いねえ」


中村は手をヒラヒラとマスターの言葉を受け流し、杉本はプッと吹いている。

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