古い人形 完

朝香るか

第1話 アンティークを扱う店

 アンティークを扱うお店の話。

 古いと称されるものなら何でもあった。

 時計、スプーン、ティーカップ。デスクなどなど挙げればきりがない。


 私、橘いずみ《タチバナ イズミ》は首をのばして店の奥に声をかける。

「すみません」

 まだ午前中だからか、店内は日光の明かりだけでいささか暗い。

「これ――」


 私が手に取ったのはフランス人形だ。

 この装飾をしているものにしてはちぐはぐな色味をしていた。


 服と顔は新品のようにきれいだが、

 扇をもつ手だけはシミのようなものがついている。


 アンティークであることは確かだが、

 不思議な見た目に魅せられて会計へと持って行った。


「ああ、ありがとうねぇ」


 店の店主は齢八十を超えていると思われる老婆。

 腰の曲がった老婆は値札を外しながら言う。


「おや、これはこれは。珍しいものを買ってくださる」

「珍しい?」


 このなんの変哲もない人形がとは思ったが、口には出さない。


 ゆっくりと老婆は語りながら、しわの多い手で人形の頬を撫でる。


「そう。これは主人を選ぶものでね。持ち主を気に入らなければ、

 この人形自身が持ち主を呪って、自分を手放させるのじゃよ」


 いきなり聞かされる怖い内容にギョッとした。


「私はこの話はあまりしないのですがねぇ。

 あんたがあまりに孫に似ていたものだから、ついねぇ」


「お孫さんと私が?」


「瓜二つじゃ……私の孫もそうやって欲しがり、不思議がった」


 老婆は目を細め、懐かしそうに語りだす。


「いま思うと、こんな人形、あげたりしなければよかったよ」


 そう呟いて、老婆は思い出を話してくれた。


 老婆にとって過去にできない

 苦しく悲しい話を。

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